・鶯丸×ゾンビ化した主のセックス
・若干の山姥切×主
・強姦孕ませ、バッドエンド、刀剣破壊

 破壊された刀剣を持ち帰った時、主は見ているこちらの胸が張り裂けそうになるほどひどくひどく悲しんだ。
 それは短刀で、まだ育成の途中であって練度は高くなかった。これから主君の力になるのです、とはりきって研鑽を積んでいる途中だったのに、先日の出陣で悪天候の中遡行軍と不意に現れた検非違使とに挟まれ、山姥切の見ている前で呆気なく折れてしまった。
 短刀を失ったのがよほど応えたのだろう、主は数日間、悲嘆に暮れていた。俺だってもちろん悲しい。けれど折れた刀は鉄屑にすぎないので、いつまでも破片を布の上に乗せて泣いていても何の役には立たないのだ。主には早く立ち直ってほしい。叱咤激励は己の性分に合ってはいないが、彼女との付き合いが長い自分がその役割を果たすべきだと思った。

 彼女に訪問するむねを伝え、就寝前、彼女の自室に訪れる。襖を開いて驚いたのだが、そこには主一人ではなく近侍の刀剣の一振りも鎮座していたのである。
 正座をしてこちらを見上げてくる男は鶯丸という太刀である。この太刀も山姥切に次いで主との付き合いの長い刀であった。なんで彼がここにいるんだろうと思ったが、もしかしたら慰め役になっていたのかもしれない。不器用で言葉足らずな山姥切と違って彼は物言いも穏やかで聞き上手なので、主の悲しみを和らげるのには適任なのかもしれなかった。
 ならば彼に同席してもらうことに問題はない。主を大事に思う気持ちに違いはないはずだ。山姥切は二人の前に座って本題に入ろうと口を開けた、しかし彼女のほうが早かったのである。

「聞いて、山姥切。鶯丸があの子を生き返らせる方法を見つけてきてくれたの」

 耳を疑い、咄嗟にその鳥太刀のほうを見やると、彼はいつもと変わらない落ち着いた表情でにこりと微笑んだ。

「ある場所に死んだ生き物を埋めると生き返って戻ってきてくれるんだって」

 このところずっと塞ぎ込んでいた彼女が生き生きと顔を輝かせている。嬉しそうに鶯丸と目を合わせて笑っているが、その笑顔に薄寒いものを感じた。
 死んだものが生き返るなんて、ろくな話ではないだろう。そもそも刀剣の付喪神である自分たちに所謂死の概念は通用しない。本体が折れれば肉の身体は消失して、魂とでも言うべき意識は混沌の中へと帰るが、それは人の言うところの死とは意味合いが違う。鍛刀さえすれば同じ刀剣の分霊をこの世に呼べるのだ。折れてもまた新たに鍛刀すれば良いというのは極論だが、そう悲観するものでもない。

「やめたほうがいいんじゃないか。俺たちは刀の分霊だ。刀剣男士を生き返らせる術など、なにが起こるか分からないぞ」
「でも試してみたいの。あの子はまだ生まれたばかりだったのだから」
「しかし…」

 嫌な予感しかしないのだ。こういう時上手く言葉が浮かんでこないのがもどかしい。どう説得しようか悩んでいると鶯丸が口を開いた。

「確かにどうなるかは分からないが試してみる価値はあるだろう。上手くいってもいかなくても今後の参考にはなるはずだ。今回だけ、やらせてみてもらえないか」

 鶯丸にも頼まれて、山姥切は開きかけた口をつぐんでしまう。一体この男はどんな方法で短刀を生き返らせるというんだ。我々刀剣男士は化生の存在、ヒトの似姿をとっていても本性は妖霊の類であるから人知を越えた力を発揮することも出来るのかもしれないが、それは刀としての本分とは違う。主が望むからといって死んだものを蘇生させるような真似はするべきじゃないと思う。
 しかし山姥切がその葛藤を表に出すことはなかった。主と鶯丸の間の奇妙な結束に口を挟む隙はないように思えたのである。

「……一度だけだ。俺も監視させてもらうぞ」

 譲歩の末にそう告げると、主はぱっと表情を明るくさせた。

 結論から言うと、短刀は生き返った。しかしそれは元の人格を少しも残しておらず、知性の欠片もない邪悪なものに変性していた。
 腐敗臭を撒き散らしながら帰ってきたそれは醜悪な怪物に他ならなかった。見た目こそはかろうじて幼子の姿であったが、湿った土のついた肌はところどころ破け、緑色の液体を垂らしていた。
 悲鳴すら凍りついた主の目前で、生き返ったばかりの短刀を屠ったのは山姥切である。

「分かったろ。こんなことは二度としないほうがいい」

 山姥切の言葉に、彼女は何度もうなずいてごめんなさいと謝った。別に責めたいわけではないのだと伝えたくて、肩を抱いて落ち着かせてやると、刺すような視線を感じて振り向く。仄暗い緑の目であの鳥太刀がこちらを見ていた。さっき屠った化け物よりも禍々しいものを感じ、ぞっと肌が粟立った。


 そういう出来事があったのがもう半年も前だ。まさか主が死んでしまうとは思わなかった。彼女が熱病をこじらせて呆気なく死んでしまったのが一週間前のことだ。
 このところずっと雨が降っている。審神者が死んで本丸の座標軸が狂い出しているのだろう。山姥切は呆然として、湿気った縁側の上で膝を抱えていた。彼女が死んだことが信じられない。まだ本丸には彼女の霊力が残っているから山姥切たちも顕現していられるのだが、じきに薄まって消えていくだろう。自分たちは刀の姿に戻り、本丸も解体する。
 彼女の遺体は棺に入れ、腐らないように安置している。雨が止んだら庭の花を集めて火葬するつもりだ。その時こそ本当にお別れなのだ。
 山姥切は濡れ縁に腰掛けて、被った布がびしょびしょになるのも厭わずに鉛色の空を見上げていた。
 この肉体ともじきにお別れだ。彼女に与えてもらった全てが無に帰す。戦場で折れるならまだ自分のことを覚えてくれる人が残っているが、これは違う。喪失。虚無に戻ることが死ならば、きっと自分たちが迎えるのも死なのだろう。
 じわじわと滲む視界の隅になにか動くものが見えた。あれ、生き物。こっちに歩いてくる。誰だろうか。
 目を擦ってよくよく観察してみたところで、山姥切の背筋は凍りついた。

ーー斬らなければ。

「主!!」

 嬉しくてたまらないといった男の声が弾けて、雨で煙る庭に駆け出す者がいる。柄に手をかけたまま結局動けなかった山姥切は出遅れて、

「主、やはり帰ってきてくれたのだなあ」

 死霊を抱きしめる鶯丸を見ていた。
 彼の腕の中で、変わり果てた凶悪な容貌をした主が暴れる。
 ざあざあと鳴るのは雨音なのか自分の血流の音なのか分からない。その雑音をつん裂くように獣の吠える声がした。もう女の柔らかな声色は少しも残っていなかった。

 彼女が帰ってきた翌日、雨が止んだ。消えかけていた霊力は再び濃くなり、本丸は持ち直した。
 火葬にしようと思っていた遺体をこっそり持ち出して、呪われた地に埋めたというのは鶯丸から聞いた話だった。何処のことなのか知らないが、彼女に染み付いた血と死の臭いで想像するには十分だった。前の短刀で実験は済んでいたから、成功するのは確信していたらしい。
 主の姿をした獣は鶯丸はおろか山姥切も他の刀剣のことも認識していないようで、当然だが会話もままならない。近づくと奇声を上げて掴みかかるので、不本意だが縄で縛って部屋に閉じ込めていると彼は話した。

「まあどんな姿でも主が帰ってきてくれて嬉しいな」

 顔中引っ搔き傷だらけの鶯丸が縁側に座る山姥切にお茶を差し出してくれる。今彼女は眠っているから目を離しても大丈夫なのだと。

「君は主に会いにこなくていいのか?」
「……あれはもう主じゃないぞ、鶯丸」

 血に塗れた土の中で、死霊たちの憎しみを吸収して変わってしまった異質なものだ。優しい声で刀剣たちを労わり、柔らかな手で傷を癒してくれた彼女ではないのだ。
 死んでしまったものが戻ってくることはない。人を斬り殺す道具であるこの太刀はそんな当然のことすら分からなくなってしまったのか。

「こんなことが許されると思っているのか。死んだものは死なせておくべきなんだ」

 だが彼は、山姥切のきつい言葉に困った顔をして首を傾げる。

「でもあれは本当に生きているんだ。触ってみれば温かいし息もしている。主の精神が失われたからといって、主が主でなくなるわけではないだろう? 人間は脆く儚い。肉体も精神もすぐ壊れてしまう。どちらか一方でもいいから繋ぎ止めておきたいと思うのは罪なことか」

 自分たちは刀剣の付喪神、結局は無機物である。考えることも望むことも人のそれとは違う。人の世でいうところの倫理観が通用しないことも多々あり、強引なやり方で審神者を引き止めようとする刀剣もいるらしい。
 その点、山姥切国広は少々特殊であった。初期刀に選ばれる刀剣は、初心者の審神者を公私に渡って長らくサポートするために、ある程度人の世の常識というものをインプットされて生まれてくる。他の刀剣男士と比較して、善悪の線引きがしっかりしていた。
 一方で、境界の曖昧な鶯丸は悲しげに呟くのだった。

「君はあれを主ではないと言うが、人間を人間たらしめるものが何か分かるか? 俺には分からない」

 山姥切は黙って茶を啜った。彼の行いは駄目だと分かりきっていたが、所詮は鉄の塊である鶯丸を説得するだけの言葉は、やっぱり同じく玉鋼で出来た脳を持つ山姥切には思いつかないのだった。

 変わり果てた姿とはいえ主が帰ってきたために霊力供給は十分であり、刀剣たちは暇を持て余して出陣するようになった。はじめは指揮を執るものがいなかったが、戦好きで聡明な刀剣が大将の役についたので滞りなく部隊は進むようになる。審神者がいなくても刀剣男士は意外と問題なく機能するものだと気づいてしまって、山姥切はそれが悲しかった。
 主が、持ち主がいないのに勝手に振るわれる刀なんて、それこそ道理に反している。
 きっと、この悪夢のような状況を終わらせるのは自分なのだ。それが初期刀の役目なのだろう。甲斐甲斐しく主の世話を焼く鶯丸を言葉を尽くして説得する必要なんてないのだ。斬ってしまえばいい。
 主が死ねばやがて自分たちも死ぬ。それが正しい在り方なんだ。

 ぎっぎっと床が軋む音がしていた。
 夜半、主の軟禁されている部屋に足を運んだ山姥切は、襖の向こうから届く押し殺した声を聞いていた。

「……主、……るな…、…ない」

 鶯丸が何事かを言い聞かせている。彼女が咆哮を上げ、ばたんと手足を振り回したらしい音がした。暴れているのだろうか。
 およそ人らしさを失ってしまった彼女を痛ましく思う。鶯丸は主を寝かしつけるために奮闘しているのかもしれない。

「ぁ…ヴ……あッ!」
「はぁ……主、…だ」

 山姥切は腰に携えた本体に指を伸ばす。
 主と鶯丸が一緒にいることは想定していた。寝込みを襲うつもりでいたがこの様子だと両者とも起きているようだ。まあいい。利は山姥切にある。自分ならこの薄明かりの中でもはっきりと物を判別出来るが、太刀である彼はろくに一寸先のものも見えないはずだ。練度もかろうじて山姥切のほうが高い。それにおそらく鶯丸は主を庇う。彼女を庇いながら不自由な鳥目で山姥切を迎え討つのは不可能だろう。
 冷たくなった指が柄に回される。
 問題はない。下手に抵抗されなければ苦しまずに逝かせることも出来るだろう。

(ああ、しかし)

 でも、ここまで覚悟して来ても、これから本当に主を斬り殺すのだと思うと、心臓に包丁を刺されたみたいに胸がきつく痛んだ。

「あっ…! 主!」

 なぜか苦しげに鶯丸が呻いた。
 主の放つ濁音と床の軋みが大きく響く。
 ふと山姥切は服の下の素肌に冷たいものを感じた。なにかおかしい。何が、と言われてもはっきりとこう示せるものではないが、ただならぬことが起こっている気配がした。
 柄にかけたのとは反対側の手で、戸の取っ手を掴む。その時本能が警報を鳴らした。
 この戸を。開けてはいけない。
 それは山姥切の行動にほんの僅かの抑制をかけた。音もなく数センチ戸を開き、息を殺して中を窺い見ることにする。夜目の利く山姥切の瞳は床に転がる二つの影を映した。
 大きな生き物のようだ、とはじめに思った。手足を縛られて布団の上に寝かされた主と、その上に覆い被さる男の姿を見た。脚を大きく開かせ、前後に忙しなく動いている。交配の姿勢に他ならなかった。
 鶯丸はうわ言のように主、主と呟きながら彼女の股の付け根に腰を突き立てている。肌のぶつかる音とかすかな水音が伝わってくる。目を凝らすと、腐りかけた紅色の肉が男の性器に絡みつく様が見てとれた。
 主は血走った目を見開き、ぐるぐると唸っている。一切の快楽は感じていないようだった。拘束されながらも身をよじり、畳に爪を立てている。息を乱し昂っているのは鶯丸ただ一人のようだ。懸命に女の体を貪る白い背中には汗が伝っている。
 胸が悪くなるような光景に、山姥切はどうしてか目が離せずにいた。
 知る限りでは、主の生前、鶯丸と彼女が恋仲だった事実はない。彼女は聡明な人間であったから、刀の付喪神と主従の枠を超えて情を交わすのを良しとしなかった。だが鶯丸のほうはどうだろうか。思い返せば妙に主に取り入り、自室を訪問したり近い距離で会話をしたりしていた。いつから彼は主に並ならぬ想いを抱いていたのだろう。主の死後、人の理を破って肉体を蘇生させたのも、純粋な思慕ではなく劣情を孕んだ私欲が起因であるのは明らかだった。
 ぎぃぎぃと床が鳴る。二人分の重さを乗せた畳が歪にきしむ。苦しげに息を吐いた男が体を起こす。汗で光る腹筋と、その下のいきり勃った剛直。半分女の中に埋もれているそれはぬるぬると濡れて淫らに光っている。鶯丸は貼りついた前髪をかき上げ、あらわになった両眼で主を見下ろした。
 美しい男が理性なき女を犯している。ひどく淫靡な光景だと思った。
 山姥切は襖の前で固まったまま目を逸らせなかった。いつの間にかその情事を覗き見るのに夢中になっていた。
 裸体の主はところどころ皮膚が変色しているが、剥き出しの乳房は白く柔らかそうだ。先端の膨らみはつんと上を向いている。よく見れば首筋や肩に男の歯型が浮かんでいた。唸り声を上げる唇から透明な涎が垂れる。それが結合部からあふれる粘液にそっくりで、山姥切は体が熱くなるのを感じた。

「主」

 熱に浮かされたような声で鶯丸が主の腹を撫でる。臍の下、彼の陰茎が刺さっているところを。

「俺の子を産んでくれ」

 耳を疑った。鶯丸はうっとりとした目で主を見つめている。世迷言を、と思ったが、彼は本気で言っているらしかった。

「君が孕むまで、何度も子種を注いでやろう」

 そしてまた律動を開始する。この交接は夜毎に行われていたのだろう。刀の身分にありながら主を手籠めにしようとは、と熱くなる頭は怒りだけが原因ではない。認め難い劣情が腹の底で燃えている。山姥切はごくりと唾を飲んだ。刀の柄を握る手が汗で滑る。
 鶯丸は主を孕ませてどうするつもりなんだろう。そもそも動く屍であるはずの彼女が妊娠する可能性はあるのか。頭の中で考えがまとまらない。
 鶯丸は主の腰を掴んで激しく出し入れを繰り返している。はあはあと荒い息遣いが絶頂が近いことを知らせている。山姥切はじっとその姿を見据えたまま、刀を握る手の力を強めた。

鶯丸を、
・斬る→ 分岐1へ
・斬らない→ 分岐2へ
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