※女主×髭切のリョナ
※ぬるいけどスカ(大小)、暴力、動物虐待描写あり

捕まえてきた敵太刀を地下牢に放り込み反抗的に睨みつけてくる頭に膝蹴りを食らわせ横向きに倒れた腹部を執拗に蹴り飛ばしてグキッボキッと嫌な音が何回か響いた頃には生気に溢れていた目はぐったりとまぶたを落としていた。

「今日からお前の主人は私だよ」

吐瀉物の散らばった海に頰を浸していた敵太刀は、その言葉を聞くと屈してたまるかという目つきでギロリとこちらを見あげる。燃える鉄の色。いいね。心底侮蔑しているその目つき。そんな目で私のことを見据える者なんて誰一人いない。お前の気高い矜持も千年生きた深遠な知性も暴力の前では簡単に崩れるものだと教えてやる。死んでしまっては困るので平皿にたっぷりと水を入れたものを目の前に置き、また明日くるよと笑いかけて檻を去る。重たい地下牢の閂を締めて、一歩一歩、階段をのぼるごとに私の体からは邪気が抜けていく。陽の光を浴びるころにはすっかり穏やかな顔を取り戻している。私はいいこ。優しいおとな。立ち入り禁止の柵を越えて本丸御殿へと戻る私は皆の敬愛を集めてやまないあるじさま。



子供の頃こういうことがあった。叔母の家で飼っていた小型犬の話だ。躾がなっておらず、会うたびにキャンキャンと吠えて隙あらば噛みつこうとする小型犬に私は腹を立て木の棒で殴った。周囲に飼い主や保護者がいないのを確認してからのことだ。部屋のすみに逃げる犬を追いつめて何度も何度も殴打した。犬はそれ以来私を見ると怯えるようになったが、事情を知らない叔母たちはあらあらどうしたのかしらねと笑って見守っているだけだった。
その時私は、常日頃から純粋を装っていれば、なにか不審なことがあったとしても疑惑の目すら向けられないことに気づいた。人を欺くのはなんて簡単なことか!
小学校では放課後、誰もいない廊下の壁に飾られている嫌いな生徒の絵画を剥がし、足で踏みつけて汚した。バイト帰り、人懐こく足元にまとわりついてきた猫を蹴り飛ばし、びっこを引きずりながら逃げていく様を笑ったこともある。私は誰も見ていないところではいくらでも残酷になれた。
同時に、この残虐性を隠すため、より一層いいこでいようと心がける羽目になる。いまもむかしもずっと、誰もが認める優等生、親も友達も先生も恋人も上司も刀剣男士も、皆が皆私を優しく素晴らしい人物だと褒める。だけどそんな評価をいくら集めても虚しいのだ。
(偽物だから)


二日後、約束からわざと一日遅れて敵太刀の様子を見に行くと、鉄格子の中で寝転がるそれは汚物にまみれてひどい異臭を放っていた。手足を拘束したまま放り出しておいたからその場で失禁したらしく、白い衣装の下半身は見るも無残に汚れている。美しい男は吐瀉物と糞尿にまみれて衰弱しながらも、私の姿を認めた瞬間瞳に怒りの光を宿した。とっても素敵だ。お漏らししちゃったの、ばっちいねえと幼児に話しかけるように言うと敵太刀は血の気の引いた頰をわずかに赤く染めふるふると唇をわななかせる。そんな状態でも屈辱に喘ぐプライドはあるのが面白い。

「あらら? 水を飲んでないねえ。餓死でもするつもりなのかな」

どうせそんなことだろうと予想済みだった。地下牢の床をコンクリートにしているのは水はけをよくするためだ。私は備え付けのホースを手に取ると蛇口をひねり、勢いよく射出してきた水を敵太刀の顔面に被せた。ゴボッゴボッと水気を多く含んだ咳と共に白い体が跳ねる。陸に上がった鯉を見ているかのようで愉快だ。そのままお着替えをさせてあげようかと思ったけれどまだ手枷足枷を外すのは危険かなと考え直し、水浸しのびちゃびちゃの服のまま放置することにする。汚物と水で膨らんだズボンはさぞかし気持ち悪いだろう。着替えさせてくれと泣いて懇願するようになれば私の勝ちである。じゃあね、喉が乾いたら床でも舐めておいてね、と手を振って地下牢を去る。濡れた服が体温を奪いあまり長く放置すると死んでしまうだろうから、6時間後くらいに見に行ってあげよう。


紫陽花の咲く庭園を並んで歩きながら、敵太刀の具合はどうだい、と近侍が心配して問いかけてくる。私は頬に手を当てて微笑む。まだ錯乱している様子だけれど、少しずつ自分の状況を受け入れているようよ。しかし近侍の懸念は晴れないらしく、眉にしわを寄せて私の手を取る。

「やっぱり君ひとりを奴のもとに向かわせるのは危険だよ。次からは僕が護衛につく」

そうされると困るのよ、と苦笑する代わりに彼の髪をひとふさ取って目をのぞきこんだ。

「大丈夫。やっと私の霊気に馴染んできたところなの。あなたや他の刀剣が行って刺激してしまったら可哀想よ。あの子は怯えているだけで、私たちを害するつもりはないの」

きっとうまくやれるから、もう少し待っていて。
そう言って微笑む私の顔は完璧だ。その証拠に近侍は肩をすくめてやれやれと息を吐き、目尻の垂れた笑顔を向ける。

「君には頭が上がらないな。立派な主様だよ」

能面のような笑みを貼りつけたまま私は安堵し、同時に己の中に虚ろに空いた穴を感じるのだった。



きっちり時間通りに来てみれば敵太刀は気絶していた。蒼白な肌は度重なるストレスでかさつき、柔らかそうな金糸の髪がべちゃべちゃに貼りついている。ぴちょんぴちょんと水が檻の柱から垂れる音が薄暗い洞に反響して風情がある。
鍵を開けて檻の中に入り、死んだように横たわる身体に触れてみた。まるで蝋人形のように冷たい。しばらく抱きかかえていると私の体温が移ってほんの少し熱を取り戻してくるので愛しさを感じた。ぺちぺちとその固い頬を叩いてみれば薄く目を開ける。うつろな瞳はガラス玉のようにぼんやりと私を映す。残忍な笑みを浮かべたおそろしい女がそこにいる。ああ、これが本当のわたし。剥き出しの悪意。ちゃんと目に焼き付けてほしいそしてこれが私だとあるがままに受け入れてほしい。
敵太刀は感情のない表情のままなにかを呟こうとし、げぽ、と力なく水っぽい液体を吐いた。

「私が主だと認めなさい」

私は飢えている。渇望している。どんなに丁寧に扱われ愛情を注がれたとしてもそれは私が他者に愛されるために作り出した偶像。耳心地のいい賞賛は表面を撫で落ちていくだけで私の本質にかすりもしない。綺麗に取り繕った薄皮を一枚めくればどろどろと煮凝った凄絶な感情が渦巻いている。嫉妬、憎悪、忿怒、傲慢、卑屈。許されたい許されたい。私は許されたい。ありのままの私を許されたい。

「私を認めて」

お前の瞳に映る醜い私を許してほしい。

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。