※現パロ


久しぶりに外に出たので陽の光がまぶしかった。
繋いだ手を軽く引かれるようにして弟と歩いている。いつのまにか僕のより大きくなってしまった手の指先は、すこしつめたくて、冬の訪れを感じさせた。
そういえば今日の僕の服装、ミルク色のジャケットに紺色の厚めのタイツ、というコーディネートも彼がしてくれたものだ。というか最近僕は弟の用意してくれたものしか身につけていない。冷暖房完備の家の中にいると温度が一定なので、着るものに変化がない。パジャマみたいなパステルカラーの服(これも弟の趣味だ)を着て日がな一日ベッドでゴロゴロしているものだから、季節のうつろいに気づかなかった。

「姉者、今日の記念を撮ろう」

弟は恋人じみた真似をするのが好きだった。
同世代の若い男女がするように手を絡めて店を回って、最後にクリスマスの装飾がされたゲームセンターに入る。もうそんな時期なんだなあ。いつも家に閉じ込められている僕は、なんだか時間というものがするすると体の表面を上滑りしていくように感じる。
店内には大学生や高校生のカップルが溢れていて、健全な青春を謳歌しているようにみえた。
たぶん僕たちも、顔が似ているだけで仲の良いカップルにみえるんだろう。

弟と並んでプリクラを撮った。
画面にはずいぶんと肌の白くなってしまった自分が映っていて泣きそうになった。

弟はお絵描きは苦手だといって僕にペンを任せる。僕もこういったことは慣れていないので、適当に名前でも書いて終わらそうかなあと思い、ふと、あれ、弟の名前なんだったっけなあと手が止まる。
最近僕は飲んでいる薬のせいか記憶があいまいなのだ。心療内科の薬だといって弟が用意してくるそれは、飲むとふわふわして眠くなって、意識がぼやっとする。
いつのまにか僕は引きこもりという身分になっていて、親にも顔を合わせず、部屋に閉じ込められて、学校も外出も禁じられていた。
唯一心を開けるのは弟だけということになっている。

うーんと。なんだったっけなあ。ひ…?ひ……。
困ったなあ。ひとまず名前は置いといて、今日の日付のスタンプをでかでかと貼ってごまかそうと思った。
日付は11月の終わりを示していて、ああ、三ヶ月ぶりの外出かあと感じ入った。
同時に、生理が三ヶ月前からきていないのに気づいた。




「姉者? なんだこの書き込みは?」

できあがったプリクラを眺めて、弟が首をかしげる。
笑顔で映っている僕と弟の胸元に、パパとママと書いてやった。
僕はなんだかおかしくなって、昔より痩せて薄くなってしまったおなかを撫でて笑っていた。





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