・主清
初期刀の加州清光、毎晩主の寝室に呼ばれて愛でられている。近侍の長谷部の部屋は主の寝室の近くだから嫌でもその声や音が聞こえてくるんだけど、ほとんどが清光の悲鳴や泣き声なので、中で行われてることが合歓などではなく恐ろしいものだと気づいていた。

というか長谷部、毎朝主に部屋の掃除を命じられてて、床に飛び散った何だかよく分からないものを片付けているので、主が清光を虐待しているのは知っているのだ。でも長谷部にとって主は絶対だし、苦言を呈するなんて出来ず、見て見ぬ振りをしていた。日増しに主の虐待はひどくなり、清光はやつれて出陣にも影響を及ぼすようになっていた。

ある夜、清光の悲鳴が急に聞こえなくなり、しばらくして主が長谷部の部屋にやってきた。
「気絶してしまってどうしても目を覚まさない。今夜はもういいから清光を自室に運んでやってくれ」主の部屋に入ると、流れたばかりの血や切り落とされた髪、様々な器具に囲まれて倒れている清光がいた。主の手によって一応は服を整えられていて、無残な傷を長谷部が目にすることはなかった。

長谷部はぐったりした清光を担いで部屋を出た。
血に濡れた彼の体に、何だかおかしな手触りを感じる。

清光を自室に送り届け、長谷部は悩む。このまま主の慰み者にされ、暴力を受け続ける清光はあまりにも不憫だ。いっそここで切って殺してやったほうが。主には、昨夜の暴力に耐え切れず絶命したと告げれば良い。清光が死ねば主の目が少しは自分に向いてくれるかもしれないという期待もあった。

汚い期待を胸に、長谷部は抜刀して、できるだけ楽に切れるように清光の服をはだけさせた。しかし、露出した清光の体を見て長谷部は絶句する。
清光の胸や腹には、刀剣破壊を防ぐ「お守り」が、びっしりと、文字通り縫い付けられていたのだ。淡い色合いのお守りが、等間隔に清光の体を彩っている。胸や腹だけでない、背中、腕や足まで、服で隠れる部分には隙間なく埋め込まれている。異様なパッチワークに吐き気を催した。刀が手から離れて床に落ち、音を立てる。そこで清光が目を覚ました。清光は虚ろな目で長谷部と、自分の体を見やり、床に転がっている長谷部の刀を見て全てを悟ったようだった。

「俺のこと、殺そうとしてくれたの?」薄い笑みを浮かべる清光はとても落ち着いて見えた。お守りが全てなくなるまで、あと数十回近く殺されるまで清光は死ねないのだ。ありがと、はせべ、と清光が呟く。「でも駄目だよ。俺が死んだら主が悲しむからね」それがとても優しい口調だったので、ああこれはきっと愛なのだなと直感して、自分の出る幕など最初からなかったのだと絶望する長谷部なのであった。


・石切丸とさにわ
最近本丸にきた石切丸が、私さにわを見て深刻そうに顔を歪めた。曰く「主に良くないものの気配を感じる。何か憑いているのかもしれない」とのことなので、毎日、彼にお祓いをしてもらうことになった。

数日後、なかなか邪気が消えないと言う石切丸はひどい顔色をしていた。憑き物のせいか、私も調子が悪い。
石切丸がお祓いをするほどにひどくなる。

これはおかしいと思い始めたある日、何人かの刀剣男士が消えているのに気づいた。日を追うごとに刀剣男士は一人、また一人と消えた。

どういうことかと石切丸を問い詰めたが、「私にも分からないよ。だが、主に憑く邪気はもう少しで消えるはずだ」と困窮した様子で言う。早く何とかしなければ、と思い、石切丸に私の目の前で全力でお祓いをさせる。

私の身体がふっと軽くなった瞬間、石切丸がばきりと折れた。何のことはない、彼が邪気だと思っていたのは私さにわの霊力だったのだ。石切丸が私の霊力を削ったせいで、刀剣男士は消えていってしまったのだ。神剣から見れば、私の煩悩混じりの霊力は邪気でしかなかったのだろう。



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