夢の中でしか会えない恋人がいる。

「今日は眠るのが早かったな」‬

 ゆっくりと髪を撫でる優しい手つき。猫みたいに擦り寄りながらぴったりと肌を寄せる。

「だって早く眠りにつけば、蓮二といっぱい一緒にいられるじゃない」

 ベッドの上の置き時計は止まっている。ずっと朝が来なければ、私たちは離れずにいられるわ。

「このところ眠ってばかりじゃないか」
「蓮二に会うためよ」
「親も友達も心配する。昼間は起きて活動するべきだ」

 食事も、運動も。人間らしい生活をするために必要なのだと口うるさく言う。そんなのどうでもいい。蓮二がいない空間なんて価値がない。学校もバイトもくだらない。この数ヶ月ご飯も食べず寝てばかりいたら体重が減ってしまって、もう少ししたら私も蓮二と同じところへ行けるかしら。なのに、私の気持ちを分かっているくせにこの人は、健全に生きろと正しい道を指し示す。

‪「離れたくない」‬
‪「また会える、今夜」‬

 そう言ってキスをした。温かい手にまぶたをゆっくりと閉じられる。涙で濡れた瞳を開ければ、朝。ああ、と声を漏らす。蓮二。あなたは残酷な光の中に、私を一人きりで帰すのね。‬
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