※セルフ受精編
※女主×燭、エロ、暴力、グロ


 廊下から私を呼ぶ声がする。

「どうぞ」

 答えると戸が開いた。夜闇に紛れる色の近侍が音もなく部屋に入ってくる。

「お邪魔するよ」

 弧を描く金色の眼。
 私はうなずいて、文机を挟んだ向こうの座布団に座るように促した。燭台切は持ってきた書類を卓に乗せる。夕食後から就寝前までのこの時間は報告書を書いたり戦術を練ったりと、机上の仕事をすることにしているのだ。私一人では大変なので、近侍の刀剣に助力してもらっている。少し前から近侍は燭台切に任せている。頭の回転が良いし、細かいことにもよく気づくのだ。何よりこの刀のことは個人的に気に入っていた。
 今夜も細々とした仕事を燭台切と一緒にこなす。ひと段落した頃にはすっかり夜も更けていた。

「今日のところは終わりにしよう」

 書類を脇に寄せ筆を置くと、彼もうなずいた。
 
「お疲れ様。お茶でも淹れてこようか?」

 うーんと唸って、首を振る。私は卓から離れて彼の隣に寄った。

「それより、こっち」

 男の膝の上に乗り、頬に手を這わす。燭台切は僅かに目を見開き、喜びとも切なさともつかぬ表情で私を見た。

「…また、眼帯は外すのかい?」
「当然でしょう」

 答えるそばから私は眼帯の紐を引っ張る。乱雑に黒い眼帯を外すと、右目部分があらわになった。
 燭台切の端正な顔の均衡を崩しているその部分。縦に入った亀裂は女性器に他ならない形をしている。

「誰か来たらどうするの?」

 困った顔をするがそんなこと聞くまでもない。いつもこの部屋で致しているのだから。無視して右目の女性器に唇を近づける。まだ濡れていないそこは、ただぶにゅぶにゅと柔らかい感触がする。

「もう、主…」

 燭台切は呆れたような声を出す。うるさいな、と指を彼の口に突っ込んだ。

「んっ…」

 濡れた口内に指が潜り込む。歯を開けさせ、舌の上に指を乗せた。

「舐めて」

 言い放つと、燭台切は恨めしそうに私を見つめ、舌を這わせ始めた。
 頬の内側の柔らかい肉に指を立てる。燭台切は苦しそうに舌でそれを押し返しながら、必死に指を舐めている。私は私で、燭台切の女性器に口淫を始めた。周りを丁重に舐め、優しく中央に触れ、入り口をほぐしていく。燭台切も慣れてきたのか、ことさら淫猥な音を立て唾液を垂らしながら私の指を吸っている。


 うちの燭台切がどうやら奇形だということは演練を通じた他の審神者と話すうちに分かった。
 私は燭台切を軍に加えた審神者に出会うたび、

「彼の眼帯の下を見たことがありますか?」

 と尋ねたのだ。多くは、「見たことがない」と答える審神者だったが数名、

「あるよ。火傷の跡があった」
「左目と変わらぬ普通の目だったよ」
「左目とは瞳の色が違った」

 と答える者がいた。
 なるほど、不思議なことに何パターンかの燭台切が存在するようだ。個体差というべきか、顕現する審神者によるのだろうか。しかしそれでも眼帯の下が女性器だという燭台切の話は聞いたことがない。うちはかなり稀有なケースなのだろう。
 共通しているのは、燭台切は眼帯の下を隠したがるということだった。うちの燭台切もそれに漏れず、他の刀剣たちの誰にも眼帯の下を見せていない。意識不明の燭台切を手入れする際に勝手に眼帯を外してしまった私しか彼の秘密は知らないのだ。そういうわけで、私と燭台切の戯れについて知る刀剣男士も、この本丸にはいない。


 私の唾液と燭台切の愛液が混ざり合い、十分に潤ってきたそこに指を伸ばす。溢れた愛液を陰核に擦り付けると燭台切は私の指を咥えたまま呻いた。彼が声を出すと振動が指を伝う。
 膣内に指を侵入させ、中を探る。彼が感じる場所は回数を重ねるうちに分かってきた。中指を奥まで差し込み押し付けるように上側を刺激する。案の定、燭台切は面白いくらいに体を跳ねさせた。

「んっ、あっ、おさないでっ」

 私の指を口に入れたまま呂律の回らない舌で訴える。

「何言ってるの。こうされるのが好きなくせに」

 緩急をつけてぐりぐりと奥を圧迫した。燭台切は悲鳴を上げ、私の腕を掴む。しかしその力は弱く、本気で抵抗していないことは明らかだった。

 ところで私は彼の膝に乗っているのだが、さっきから固いものが足に当たっている。私はどうにも男性の体が苦手で、燭台切と性的な接触を持つ時は顔の女性器に一方的に触ることしかしていなかった。今までずっと、ズボンを押し上げているそれには触ったことがなかったのだが、ふとあることを思いついて、今日は手を伸ばした。

「燭台切」

 私は両手を彼の穴から抜いて、微笑みながらその顔をのぞきこんだ。急に快楽から弾き出された燭台切は、涙と愛液でぐちゃぐちゃに濡らした顔をきょとんとさせた。

「ここ、触ってあげようか?」

 固いものに手を這わす。服の上からでも熱を感じる。
 燭台切は夢から覚めたようにびっくりした顔をした。

「え…?いいの…?」
「燭台切のならいいよ。挿れたくはないけど、触るのならできそう」

 私がそう言うと、燭台切はこの上なく嬉しそうに顔を崩した。

「…本当かい?!」

 次の瞬間、私は彼の腕にきつく抱き締められていた。逞しい腕と胸に囲われる。ああやっぱり右目以外は男の身体だなあと思い、少しばかり嫌悪感が湧いた。

「苦しい。やめて」
「ご、ごめんね」

 冷たく言い放つと、慌てたように腕を緩める。燭台切はちゃんと私のことが好きで大切に思っているらしい。しようと思えば私を捩じ伏せて強姦できるのに、しないというのが彼の紳士さを表している。

「それじゃ、脱がせるよ」

 私は膝から降りて、彼のズボンに手をかけた。「ちょっ、ちょっと待って」いざとなって燭台切は慌てふためいたが気にせず服を引っ張り下ろす。解放された男根が目の前に現れた。改めて見ると、世の女性はこんなものを中に入れるのか、正気だろうかと疑ってしまう。
 既に上を向いているそれに手を添える。どうするかは一応知っているが、実際にするのは初めてだ。

「擦ればいいの?」

 燭台切を見上げると、彼は片手で口元を覆って赤くなってこちらを見ていた。

「う、うん」
「どうしたの」
「いや、君にこんなことをしてもらえる日がくるとは思ってなくてっ…」

 感慨に耽っているのか、照れているのか。まあいいや。私は拙い手つきで手淫を開始した。燭台切のを手で包みこんで上下に動かす。

「…こんなんでいい?」

 ちゃんとできているか不安だ。

「ん…上手いよ、主」

 複雑そうな表情で私を見ている。黒手袋をはめた指先で、頬を撫でてきた。

「顔を近づけてくれたら、右目も触ってあげられるよ」

 少し逡巡した後、彼は顔を寄せてきた。私は片手で下を愛撫しながらもう片手を右目の女性器に突っ込んだ。

「うっ…、ん…」

 より快感が強まったのだろう、燭台切は顔を歪める。扱く速度を速めながら中を擦る力も強める。同時に二箇所愛撫するというのはなかなか難しい。

「あっ、主…、もうイきそう…」

 上も下も触られるのは余程良いのだろう。燭台切が余裕なさげに声を震わす。
 しかし、このまま達せさせるわけにはいかない。私には計画していることがあった。

「……」

 意を決めて、片手で扱いていた男根を口に含む。

「主?!」

 燭台切が驚愕する。

「な、何を…、そこまでしなくていいよ?!」

 なんとか口の中に収まるが、かなりきつい。歯を当てないように注意しながらゆっくりと頭を動かす。喉のほうに当たるたびえずきそうになる。吐き気を飲み込みつつ、舌を裏筋に当てたまま上下させる。男に口淫などするのは初めてなので上手く出来ているかは分からない。

「ひっ…、あ、主…」

 燭台切が私の頭を掴む。引き離そうとしているらしい。逃れまいと腰を掴んで対抗する。少し苦いような唾液をごくりと飲み込み、私は顎を引く。

「早くイってよ」

 唇を先端につけたまま喋る。燭台切が震えた。

「駄目だよ…離れて、出ちゃうから」

 チッと舌を打ち、私は思いっきり腕を伸ばして燭台切の顔を掴んだ。こちらに引きつけ、右目の女性器の中に指を突っ込む。燭台切は悲鳴を上げる。緩くなったそこは抵抗なく指を二本受け入れた。愛液でぬめる中を擦り上げる。男根を口に含んだままの体勢なのでうまいこと指を動かせないが十分だったようだ。急に燭台切のが口の中で跳ね、舌の上にどろっとしたものが流れ込んできて苦味と生臭さが広がった。彼の腹筋が苦しげに波打つのが見えた。
 頭上で燭台切の押し殺した呻き声が聞こえる。複数回に渡り精液は吐き出される。ようやく射精が終わったころには、口内には唾液と混じってけっこうな量が溜まっていた。不味すぎて顔をしかめる。粘膜に貼りつくようだ。

「ぁ、る、じ……」

 燭台切は涙を流しながら、怯えたような顔で私を見つめる。
 体を起こす。彼の頭を両手で掴んで勢いよく顔を近づけた。

「っっ!?!?」

 右目の女性器に唇を押し付ける。含んでいた精液を、そこへ流し込んだ。膣の中へ。舌を差し込んで奥深くへ送る。

「主?! 何するの?! んむっ?!」

 叫んだ燭台切の口を唇で塞いだ。
 まだ口に残っていた精液を彼の口内へ押し込む。ぬるりと舌が触れ合う。

「んっ…、んっう…っ、」

苦しげに悶えながらごくりと喉が動き、精液を飲み込んだのが分かった。逃げようとする舌を追いかけて絡めた。頭をがっちりと掴んで、柔らかく温かい感触を味わい、溢れてきた燭台切の唾液を啜った。

「…どんな味だった?」

 ぐちゃぐちゃの顔を間近で見つめて笑う。燭台切は両目から体液を流し、震えながら私を見上げる。しゃくりあげるように泣く様は滑稽で、無様で、愛しかった。

 これが私と彼との初めてのキスだった。


***


「体調はどう?」

 たまたま廊下ですれ違った彼に問いかける。燭台切はびくりと体を震わせ、一呼吸の後に振り向いた。

「ん?変わりないよ?」

 笑いかける顔は、普段と寸分違わず格好良く決まっている。

「燭台切さん、どうかしたんですか?」

 私と手を繋いでいた短刀が不思議そうにこちらを見上げてきた。無邪気に心配する瞳が可愛らしい。燭台切の縋るような視線を感じる。

「ううん、大丈夫よ」

 短刀を一撫でし、私たちは歩みを再開した。
 廊下を曲がるまで、背中に燭台切の視線を感じ続けた。



「どうしてこんなことをするの?」

 哀れっぽい喘ぎ声を上げる燭台切。私はその右目に指を入れてかき回している。

「あなたに生殖能力があるか試したいの」

 その女性器は機能しているのか。自分の精液で受精は可能なのか。
 中指を奥まで入れて中を探るが、指ではどんなにがんばっても子宮口らしきものには触れない。

「うーん、この奥に子宮があるかは分からないね」

 燭台切は歯を食いしばって泣いている。

「また今日も口でしてあげる」

 膝で燭台切の股を圧迫しながら押し倒した。膝で何度もごりごりしていると、次第に硬度を増していくので可笑しくなってしまう。
 荒い息をつく燭台切を見ていると、腹の奥からぞくぞくするような嗜虐心が湧いてくる。男の腹に跨って、ぱちゅんぱちゅんと音を立てて女性器に指を抜き差しする。愛液が右の頬をびっしょりと濡らす頃、膨れ上がったままの下半身に手を伸ばす。ズボンを剥がそうとしてももう抵抗しなかった。
 両手で竿を握って口で包み込む。私の舌よりもずっと熱い。唾液を溜めて、音を立てて吸い上げる。

「っ、…!」

 燭台切は声を押さえ込むように口元を押さえる。目は苦しげにぎゅっと閉じられていた。私は顎を動かす。少しコツを掴んだのか、初めての時のような苦しさは減ってきた。
 やがて燭台切の腹が不規則に凹み絶頂が近いことを知らせる。口を休めず動かしていると、低く呻く声と共に精が吐き出された。苦くて塩辛いような液体を余すことなく口に受け止める。そのままこぼさないように右目まで運んだ。愛液が冷えてつめたくなっている女性器に唇をつける。前回と同じように、口移しで精液を送り込んだ。
 その後、はぁはぁと息をついている燭台切にキスをする。燭台切とのキスは、精液の名残と唾液で、なんだかよく分からない味がする。粘ついた体液を舌で押し込み、彼がそれを嚥下するのを確認してから口を離した。

「赤ちゃんできたかな」

 べたついた口を拭って微笑んだ。彼は何かを訴えるような悲痛な表情をしていたが、黙って私を見るのみだった。
 体を起こす。燭台切から離れて、立ち上がろうと体勢を整える。
 その時だった。急にすごい力で体を引かれた。胸に衝撃を受ける。目を見開く。気がついたら目の前に燭台切の瞳がある。顔を押さえつけられて、強引に唇を合わされた。呆気に取られている間に舌が入ってきて口内を蹂躙する。
 自分からするのと相手からされるのではまるで勝手が違うのだな。息苦しさがどんどん高まっていく。
 ものすごく長い時間キスしていたような気がした。

「僕は君のことが好きなのに、こんな仕打ちを続けるの?」

 ほんの数ミリ唇を離しただけの燭台切が、低い声で凄んでくる。恐怖を感じた。
 私は平手でその頬を打った。

「ふざけないで」

 乾いた音が部屋に響いた。
 燭台切は打たれたままの姿勢で固まっている。
 力が抜けている間に彼の腕から逃れる。部屋を出た。夜の廊下をどたどたと歩いて、浴室へ向かう。後ろ手に戸を閉めた。冷たい壁に背中をつけて立ち尽くす。足が震えた。

 好意を弄していることは分かっている。ふざけているのは私のほうだ。


***


 朝方、布団でだらだらしている私の上に、ぽすんと何かが乗ってくる。

「あるじさま、あさですよー」

 ぽかぽかと背中を叩いてくる。可愛らしい所為。

「おはよう、今剣」

 私は寝返りを打ち、布団をのける。今剣は軽やかに隣に着地した。

「もうすぐ、あさげもできますよ。しょくだいきりさんに、おこしてきてってたのまれました」

 今剣は屈み込むと、不思議そうに私の目を覗き込んできた。

「あるじさま。すこしまえまでは、しょくだいきりさんがおこしにきていたのに、なんでさいきんはこないんですか?」

 うーんと頭を振り、寝ぼけているふりをした。

「今剣、着替えてから行くわ」

 退室を促す。今剣は釈然としない様子で首を傾げ、部屋から出て行った。



 今日も夕食の後、辺りがすっかり暗くなったころに、部屋の前から声がかかる。

「どうぞ」

 燭台切が薄く微笑んで入ってくる。笑顔を浮かべてはいるが、その目は不安げにこちらをうかがっている。

「置いて」

 命じると、持ってきた書類を卓に乗せる。座るように促す。いつものように近侍の燭台切とふたりで仕事に取りかかる。
 距離を置いてからもこの作業だけは続けていた。あの一件があってから燭台切と性行為をすることはない。今剣をはじめ他の刀剣たちも私と燭台切との間に何かあったことを察していた。皆、気を使っているのか、直接聞いてくる者はいなかった。喧嘩でもしたのだと思われているだろう。燭台切に女性器がついていることは誰も知らないはずだし、まさか自家受精を試みていたことなど思いつきもしないはずだ。
 淡々と、表面上は何の変化もない様子で作業を終え、私は彼のほうを向いた。

「今日も手伝ってくれてありがとう。おやすみ、燭台切」

 以前なら膝に乗って行為を迫っていたところだ。
 燭台切はうなずく。立ち去るかと思いきや何か言い淀んでいる。
 珍しいな。どうしたのだろう、と続きを待っているとやがて彼は困ったように笑った。

「あのね、主。明日食べたい物あるかな?」

 きょとんとした。燭台切は目線を逸らして笑う。その仕草に奇妙に胸が鳴る。

「明日ね、短刀の子たちに料理を教えてあげる予定なんだ。せっかく作るなら主の食べたいものを、と思ってね」

 恥ずかしそうに説明する燭台切。可愛いな。私の近侍はこんなにいじらしい刀だったのか。心の中で何か熱い感情が渦を巻く。

「…オムライスがいいな」

 適当に思いついたものを答えると、燭台切は幾分ほっとした様子で表情を和らげた。

「オムライスだね。分かった。卵買ってくるよ」

 たまご。
 思いがけず、その言葉が引き金になる。
 背筋がぞくぞくしてきた。頭に急速に血が上るのを感じる。渦巻いていた感情は情欲に転化し、嗜虐の影が胸に広がり、黒い怪物となって私を支配した。

「…じゃあ、また明日ね」

 燭台切が座ったまま後ろを向く。座布団を片付けようと身を屈める。
 私は卓上にあった硯を手に取った。立ち上がる。燭台切は気づいていない。いや、気づいていたとしても、警戒していないのかもしれない。彼がこちらを意識していないうちに、意外と重量があるそれを大きく振りかぶる。

 全ての体重を右手にかけるように、硯で思いっきり燭台切の後頭部を殴りつけた。

 鈍い音が耳に障る。

 不意を突かれて床に突っ伏す燭台切。頭を両手で覆い振り向く。

「な、なにを、」

 言い終わる隙を与えず、さらに上から硯をぶつける。一回、二回、三回。痛みにうずくまる燭台切を何度も殴りつける。

「やめて」

 悲鳴が途中で潰れる。庇おうとする腕にはお構いなしに執拗に頭を殴り続けた。後頭部をガンガンと殴打する。
 燭台切はやがて声もなく、右目を押さえて這いつくばる。打たれたはずの後頭部ではなく、右目を。
 振り下ろす手を止めた。腕がじんじんとして、暴力を振るったあとのふわふわとした恍惚感に体と心が解離しそうになる。気持ちいい。
 黒色なので分かりにくいが、よく見ると彼の眼帯が重く濡れている。眺めるうちに眼帯と手のすき間から血が流れ落ちてきた。赤黒い液体が畳の上にまだら模様を作る。

「ぅ…」

 震えている燭台切に近寄る。髪の中をさぐって眼帯の紐を解いてやる。指に血が付いたから、頭の皮膚も切れているようだ。当然か。
 眼帯を引っ張って剥がした。右目を押さえている手を無理やりこじ開ける。あらわになったそこは、血でべたべたになっていた。
 血まみれの女性器へ指を突っ込む。ぬちゃぬちゃと気味の悪い感触、下品な音が響く。膣の中に何か塊のようなものをみつけた。それを指で掴んで引っ張り出す。出てきたものをよく見えるように床に落としてみた。畳の柔らかな若草色にドドメ色の塊はよく映えた。
 親指の先ほどのその血の塊は、崩れかけた胎児に見えないこともない。
 燭台切が苦痛に歪む目でそれを見て、おぞましさに息を呑んだ。

「赤ちゃんできてたんだね」

 燭台切の卵も種も、ちゃんと機能していたのだ。
 笑い出したくなった。

 私は胎児を指でつまみ上げて自分の口の中に入れる。きんと頭に響く鉄の味がした。
 いまだに痛みと恐怖で身動きの取れない燭台切に顔を近づけ、その凍り付いた唇に口付けた。ぐちゃりと舌を侵入させる。舌の上にあった血の塊の胎児を、彼の口に押し込もうとする。燭台切がびくりと跳ねた。苦悶の声を上げて拒否する。私は彼の顎に爪を立て、引き千切る勢いで下に引き下げる。それでも歯を開けないから、燭台切の唇を強く噛んだ。痛みで思わず悲鳴を上げかけたところに素早く舌を入れる。必死に押し返そうとしてくる。無言の攻防戦の末、ついに胎児を押し込むことに成功した。
 唇を離して、彼の口を手で押さえつける。今にも吐き出しそうなのを阻止するためだ。
 大きく見開いた目に涙を溜めて私を見る燭台切の、恐怖に竦む顔に私は笑いかけた。

「ごっくんしてよ。いつもみたいに」

 左目から涙が頬を伝う。その喉がごくりと動くまで、ずっと口を押さえつけていた。
 精液の苦味がしない初めてのキスだった、と私は感慨にふける。口内に残っていた血を舐め取ると味はどこか甘くて、燭台切の精と卵子が合わさってできたものだと思ったら尊いものに感じた。
 微笑みながら彼の頭を撫でる。地獄絵図のような室内。血まみれで震えている可愛い私の近侍。

「赤ちゃんできるのが分かったから、次は大事に育てようね」

 燭台切は絶望に凍った瞳から涙を流すのだった。


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