※眼帯の下が女性器、女主×燭


 眼帯を外す。
 燭台切の左目が、ゆらゆらと不安定な光を灯してこちらを見ている。
 右目にあたるそこに唇を寄せた。びくりと燭台切の体が跳ねる。顔を見やると、左目をきつく閉じ、体を硬直させていた。
 舌先で軽くそこを舐める。湿った音が耳にまとわりつく。

「ん…」

 燭台切の喉から力ない声が漏れる。思わず頬が緩んだ。見目麗しく体格も良い色男が目の前に跪き、私の腕の中で喘いでいる様はひどく滑稽で扇情的だ。
 視線を戻す。本来なら右目のあるべき場所にあるのは女性器で、痙攣するように動いては私を誘っている。ちゅっと音を立てて吸い付きを始めた。


 この戯れがいつから始まったのか。最近のことでないのは確かである。きっかけはそう、重傷を負って帰ってきた燭台切を手入れ部屋にぶちこみ、身ぐるみ剥いで治療したときのことだ。顔面まで裂傷を負い意識朦朧としていた燭台切の眼帯をひっぺがすと、そこには目玉ではなく裂け目のようなものがあったわけだ。
 まさかそれが女性器だとは思わず、怪我のせいで顔面が裂けてしまったのだろう…と必死になって手入れをした。しかし傷が完治しても右目の裂け目が塞がることはなかった。

「ああ、主…。気づいてしまったんだね」

意識を取り戻した燭台切は右半分の顔を手で覆いうつむいてしまった。

「誰にも見せたくはなかったのだけど…。僕の眼帯の下は元々こんなふうになっていたんだ。訳が分からないよね」

 気持ち悪いだろう? と自嘲気味に笑う彼の声も手も泣きそうに震えていて、いつもの余裕たっぷりな燭台切の姿ではなかった。そこで初めて私は、彼をほんの少し愛しいと思ったのである。


 その後いつの間にか燭台切のそこを使って彼を愛でるようになった。顔面の性器を使うことに抵抗を示していた燭台切も、やがて快感を得ることに慣れていった。
 私は口淫を続けていた。次第に愛液が増えてきたので、唾液と混じって水音がうるさく響く。

「ひぃ…ぅ…主…」

 燭台切はいやいやをするように首を振り、逃れようとする。向こうに逃げかけた顔を両手で強く引き戻し、彼の太腿の上に膝を乗せて体重をかけた。また燭台切が苦悶の呻き声を上げる。
 私は舌で舐るのをやめ、中指を秘部に突き立てた。ぬめった管はさして抵抗もなく侵入を受け入れる。中指で膣内の上のほうを擦りながら、親指で陰核を押し上げると、燭台切はびくびくと体を揺らした。

「ぁ、あ」

 だらしなく開いた口から涎を垂らし、定まらない目線で私を見上げてくる。黒手袋に包まれた手は、太腿を強く掴んでいた。

「ある、じ」

 指の間から熱い液体がだらだらと溢れる。愛液で右半分の顔はぐしょぐしょに濡れている。金色の左目からも涙が溢れて、形の良い顎から滴り落ち、あたかも両目(?)から涙を流しているようだ。ああ本当に可愛らしい。

「どうしたの?気持ち良くない?」

 わざと手を止めると、燭台切は顔を歪めた。続けてください、と吐息のように懇願され、私は優越感に浸りながら動きを再開する。鼻にかかったような甘い喘ぎ声と卑猥な水音が部屋に響く。不意に彼が手を伸ばし、抱き寄せるように私の背中に触れた。
 悪寒が走る。咄嗟にその手をはたき落とした。

「触らないで」
「ご、ごめんね…」

 燭台切はおずおずと手を引っ込めた。
 私は男に触られるのがたまらなく不快なのだ。実を言うと燭台切の男の部分には触りたくも見たくもない。この情事の際にも、右目の女性器にしか触れないのだ。

「あなたの女の子の部分しか好きじゃないの」

 突き放すように言うと、燭台切は唇を噛んだ。左目に宿る光は屈辱か、悲しみか、他のものか。だが、知ったことではない。

「喘いで善がって私を楽しませればいい」

 指を三本に増やして中をかき混ぜる。燭台切は悲鳴のような声を上げて仰け反った。ふと彼の股間に目をやる。案の定、そこはズボンを押し上げて明らかに勃ち上がっていた。

「そっちも勃つんだね。不思議なもんだ」

 顔面の女性器に刺激を加えると、男の部分も反応するらしい。張り詰めた下腹部は見るからに苦しそうだ。だがそこを触ってやる気は毛頭ない。愛液を吐き出す女性器だけを執拗に愛撫し続けた。燭台切の息が熱さを増す。ひどく喘ぎながら、ついに彼は切羽詰まったようにズボンの前を下ろした。
 腹につきそうなくらい勃起した男根が視界に入る。私は露骨に顔をしかめた。何度見ても気持ちのよいものではない。こんな膨れ上がった醜いものを目にしたくはないな。

「ぁ、主、」

 懇願するような目で見てくる顔は涙やら汗やら愛液やらでぐちゃぐちゃで見るも無残だ。見てくれを気にするいつもの彼に鏡で見せてやりたい。

「私はそっちは触らない。苦しいなら自分で扱きなさい」

 もう何度目かの台詞を吐き捨てる。燭台切は嗚咽に近いような声を押し殺しながら、自分で竿を握って上下に動かし始めた。
 顔面の性器を嬲られながらもう一つのほうで自慰をするというのはどんな気持ちなのだろう。まぁ単純に考えて、快感は強くなるはずだ。二倍になるのだから。
 燭台切が蕩けた目で私を見上げた。腰が浮きかけている。絶頂が近いことを悟って、強く指を動かしながら頬の愛液を舐めとるように舌でなぞった。
 急に中が痙攣して不規則に指を締め付けた。燭台切は声にならない息を吐き、体を震わせる。上で絶叫を迎えると同時に、彼は黒手袋の中に白濁した液体を放った。
 燭台切はしばらく荒い呼吸を続けた後、ぐったりと目を閉じる。膣の収縮がおさまったので指を引き抜いた。愛液に混じって精液の独特の臭気が部屋に漂う。指を舐めると薄塩辛い味がした。

「満足した?」

私がのぞきこむと、薄く目を開ける。涙で光る金の瞳は美しく色っぽかった。どこか恨めしそうな視線で見返す燭台切の女性器にもう一度だけキスをして、私は部屋を出た。


「燭台切は、私を抱きたくはないの?」

 あれから何日後か、手入れ部屋でのことである。
 久しぶりに怪我をして帰ってきた燭台切に治療を行いながら、何とは無しに私は尋ねたのだ。
 それまで穏やかに受け答えしていた燭台切の雰囲気が急に凍った。優男が真顔になると恐ろしいものだと知る。

「抱きたくないか、だって?」

 底冷えするような声が聞こえたその時には、私は両の手首を掴まれていた。近くに迫るのは見慣れた綺麗な顔だ、でも表情がないとこんなに恐ろしいのか。

「抱きたいに決まってるだろう」

 吐き捨てるように言う。手首を拘束する力は強く、抵抗してどうにかなるものではない。男に押し竦められるとはこういうことか。
 しかし私は、たいして恐怖を感じていなかった。
 見つめ返していると、ふっと彼の表情が緩んだ。手首を掴む手から力が抜ける。

「なんてね」

 燭台切は小さく笑って体を離す。自由になった手にはしかし、彼の手形が白くしっかりと残っていた。

「僕は強姦なんて格好悪い真似はしたくないからね」

 少しだけ悲しそうな目で私を見る燭台切。手首をさすりながら私は口角を上げる。

「ちゃんと君を振り向かせるまで手は出さないよ」

 私が男性の体を嫌悪していることは分かっていて、それでもなお、心を掴みたいと、そう言っているのだ。

「せいぜい頑張ってね」

 少しだけ嬉しくなった。
 困ったように笑う燭台切のことは、決して「嫌い」ではないのだ。


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