※全編通してエログロ、閲覧注意

箸を置いた私を見上げて、しょくよくがありませんねと今剣が首をかしげる。紅玉のような瞳に、いくぶんか痩せてしまった私の顔が映っていた。
 朝餐の場だった。私は広間にて刀剣たちと共食していた。ちょうど隣に座っている今剣は、先ほどから箸が進まない私を怪訝に思ったらしい。

「大丈夫よ」

 吐き気をおさえながら彼に向かって微笑む。胃がむかむかするだけでなく、物理的にもお腹が苦しい。腹が膨れてきたのを認めたくないから、わざとぎゅぅっと力を込めて帯を締めているのだ。きつく圧迫された腹部は見た目こそ正常を繕っているが、中に息づく寄生虫のような塊は無言で体内から存在を主張していた。
 腹の子が大きくなるにつれ、鱗も増殖している。服で隠れてはいるが、当初首のうしろに生え始めた鱗は、いまや背中の半分を覆うほどに広がっていた。
 今剣は心配そうに眉を寄せる。懐妊したことは誰にも言えずにいたが、付き合いが長い彼は私の異変に気づいているようだった。

「……あるじさま、なにかこまっていますよね?」

 声をひそめて体を寄せてきた彼にどきりとした瞬間、視界の端にこちらを凝視する金色の瞳を見て背筋が冷えた。

「…ほんとうに、大丈夫だよ」

 今度こそ吐き気が込み上げてきて、私は席を立った。




「母様、腹が苦しいなら無理をせず服を変えればいいのだぞ」

 私の着物の合わせをはだけながら膝丸が言う。帯を抜かれて圧迫感が消え、楽になった腹部と胸から力が抜けた。
労わるように優しげな声と手つきで服を脱がす膝丸だが、その瞳は闇の中で物騒な光を放っている。彼が私に向ける視線が愛情と執着の入り混じった醜悪な独占欲だとは分かりきっていた。

「腹だけでなく乳も膨らんできたな」

 まろび出た乳房の片方が手のひらに掴まれ、柔らかい肉がその長い指の間から溢れた。妊娠すると胸が大きくなるのは人の子でも付喪神の子でも同様らしく、私の胸は彼の手にも余るくらいの大きさに膨らんでいた。体温の低い手が慈しむように胸の凹凸から腹へと流れていく。下腹部はわずかに、緩やかな曲線を描く形に張り出していた。彼の手がそこで止まる。そこに、その中に、私と彼との子供が入っている。
 懐妊が発覚して一月である。たったの一月で、腹は見た目にも分かるほどに膨らみ形を変えている。人間の子供ならば母体の腹が大きくなるまでに三、四ヶ月はかかるはずなので、これは尋常でない成長速度だった。一体中でなにが育っているのかと想像したら恐ろしい。
 子供は動かない。だが死んでいるわけではないだろう。次第に腹の中の塊が硬度を増して膨張していくのを感じていた。

「生まれてくるのが楽しみだな」

 愛しげに下腹部を撫でながら、膝丸が口付けてくる。ひんやりした唇の感触を受け止めるとすぐにそれは離れ、代わりに胸を揉む手に力を込められる。大きくなった乳房にぐにぐにと指を食い込ませられると、快感と共に込み上げてくるものがある。つんと張るような痛みに似た感覚がして、膨らんだ突起から白っぽい液体が湧き出てきた。ぱんぱんに張って発達した乳腺は、生まれてくる我が子のために母乳を製造しているのだ。望もうと望むまいと体は子供を産む準備ができている。
 滴りそうになった母乳を膝丸が舌で受け止めた。そのまま乳首ごと下から上へと舌で持ち上げるみたいにして舐め上げる。重たい胸が揺れて、鈍い快感が背を這う。膝丸の指で締め付けられた乳首の先端から、半透明の液体がとろとろと溢れ出した。ぬるついた舌が乳首を擦ってそれを舐め取っていく。

「…母乳、飲みたいの?」

 胸元に顔を近づけて乳を舐める彼の頭を撫でてやる。
 膝丸は目線を上げてうなずき、今度こそ完全に乳房を咥え込む。湿った口内の粘膜、濡れた感触に包まれる。出産に備えて腫れて敏感になっている乳首を口の中で捏ねられて歯を立てて吸われて、刺すような鮮烈な刺激に襲われる。ちゅうちゅうときつく吸われれば胸の奥のほうから母乳が吸い出されて体外へ噴出していく。本当の赤子のように私にしがみついて母乳を吸い出す膝丸だが、そもそもは彼の子供を身籠ったせいで乳が出るようになったわけで。母様と呼びながら私を孕ませて嬉しそうに母乳を吸う様は矛盾だらけだった。

「美味しい?」

 膝丸は返事の代わりに一際強く乳首を吸い、それから口を離して私の唇に押し当ててきた。誘導されるがまに口を開けると含んでいた母乳を口移しで渡される。唾液と混じったなまぬるい液体は甘いようなしょっぱいような奇妙な味わいで、こんなものを赤ん坊に飲ませるのかと思うと複雑な気分になる。
 舌を絡め合わせているうちに押し倒されて床に寝かされた。体を密着させられると、私の張り出した下腹部に固く熱を持ったものが触れる。妊娠中の母親に欲情するどうしようもない愚かな我が子は、長い舌を隙間なく滑り込ませ懸命に口内を貪っている。

「母様、いいだろう? 無理はさせないから」

 長い口付けのあと真上から懇願するように見下ろしてきた膝丸は、酸欠と興奮のために浅い息をしている。その鋭い目線に射たれて腹の奥が期待に震える。何度も彼を受け入れてきた体はもう、勝手に反応するようになっていた。
 許可を待つ犬のように息を荒げて返答を求める膝丸の、垂れた前髪ごと頬を撫でてやる。

「いいよ」

 答えると、彼は半身を起こして私の脚を抱き上げる。
 両足の太ももをぴったりとくっつけ合わせて、その肉の間に勃ち上がった性器を挟んできた。乳を刺激されて興奮していた体はすでに濡れていて、にゅるりと隙間に入り込んできた固い肉の感触を喜んで受け止める。熱い塊が割れ目に押し付けられて、入るか入らないかぎりぎりのところで上滑りする。
 膝丸は私が妊娠してからは体を気づかって、挿入するのは控えてくれていた。代わりに手や口や胸を使ったり、こんなふうに陰部同士を擦り付けるだけの擬似性交で欲を満たしている。
 膨れ上がった陰茎が割れ目に食い込まされ、止めどなく分泌される粘液の助けを得てぬるぬると滑る。先端の膨れたところが膣口を通り過ぎるたびに内臓が疼くような切なさが込み上げてくる。たまに穴の縁や陰核に引っかかってそのまま擦られるから形が変形し、そのたびに腰が跳ねるような快感に貫かれる。しかしまだ足りない。激しい愛撫を受けてだらしなく蜜を吐き出し口を開ける雌穴が、中まで挿れて満たしてほしいと訴えていた。

「あっ…ん…! 気持ちいい、っ…!」

 摩擦で熱く感じるほどに勢いよく肉襞を引っ掻かれる感覚が気持ちよくてたまらない。そのまま中にぶちこんで内側もぐちゃぐちゃに掻き乱してほしいと、雄を求めて体内が蠢く。

「ああ……貴女は柔らかいなっ……」

 膝丸は私の脚を抱きかかえて腰を打ち付ける。固く重量を持った肉が割れ目にねじ込まれ、充血しきって尖っている陰核を潰していく。敏感な部分を執拗に擦られ、波打つ肉襞の凹凸をなくす気かというくらいの激しいピストンに意識が遠くなる。

「あっ、やだっ……、ぁっ、あああッ!!」

 挿れられてもいないのに達してしまう。震える指をシーツに突き立てて、体を貫く快感に耐える。私が絶頂の中でぴくぴくと痙攣している間も、膝丸は容赦なく抽送を繰り返している。頭の中が銅鑼で殴られたみたいにうるさく鳴り響いて、波紋のように広がってきた快楽の波に全身まで溺れる。

「はぁっ……、挿れたい…中に入りたい……!」

 膝丸は苦しげな声を吐きながら、もどかしさをごまかすように私の脚に噛みつく。牙が食い込んで鋭い痛みが走る。それすらも快感を上乗せするものだった。

「んぁ、膝丸っ、あっ、ぅ、挿れて…! 挿れていいよ…」

 達したばかりで敏感になっているところに繰り返し刺激を加えられて、体の昂りは収まることなくむしろさらに上を求めていた。目の前の男に貫かれたいと本能が喚いている。腹の中の子供を守ることよりも、快感を求める獣欲のほうが打ち勝っていた。

「それは駄目だ…貴女と子供になにかあったら困る…」

 しかし膝丸は苦渋に満ちた表情で首を振る。挿れたい衝動を抑えるためなのか、血が滲みそうなほどに脚を噛まれる。

「じゃあ、こっちにきて…、お願い」

 両手を彼に向かって伸ばす。膝丸は抱えていた脚を離すと私の上に体を倒してきた。彼の首に腕を回して抱きつく。

「ん……ん、いい子だね…」

 幼子をあやすみたいに頭を撫でると、彼は声を震わせて縋り付いてきた。

「ああ…母様っ……!! 貴女の中に入りたい…! 俺も貴女の胎に還りたい…」

 首筋に食いつかれる。持て余した欲をぶつけるかのごとく、がぶがぶと歯を立てられて喉を歯型まみれにされる。彼が腰を叩きつけるたびに、愛液と先走りの液で濡れた性器が股から腹へと滑る。片手を伸ばしてその剛直に触れる。互いの体液でびしょびしょのそれを手のひらで押さえつけ、己の陰部と腹にぴったりとくっつける。そのまま前後に体を揺すられると、膣口から恥骨にかけて一気に擦り上げられて、本当に性交しているような快感が走った。

「ひゃっ、んああっ! 膝丸っ…! 気持ちいいよおっ……!!」
「俺もだ、貴女の体はどこも柔らかくて熱くて最高だ」

 子供を内包して膨らんだ下腹に膝丸の性器が力強く押し付けられる。手のひらと下腹部の間で熱い亀頭が滑り、ぬるぬると体液を塗り付けられるみたいだった。
首を噛んでいた歯が胸元に移る。肉に食らいつくみたいに激しく歯を立てられて、唐突にやってきた刺激に背筋が反った。

「やっっ、噛まないでっ!! いたッ、ああーーーっ!!」

 乳首を噛み潰されて痛みと快感に視界が眩む。滲み出す母乳を膝丸はじゅるじゅると音を立てて吸い上げていく。胸も股も同時に刺激されてまた呆気なく達してしまった。愛液と一緒に母乳も噴出してくる。一瞬口を開けた膝丸の、上下の牙の間から白っぽい液体がだらだらと漏れて胸に垂れた。

「溢してしまってはもったいないな」

 犬みたいに舌を這わせて、こぼれた乳もちゃんと舐め取っていく。

「ひゃんっ、やだぁっ……! 母乳なんておいしくないでしょ……!!」

 肌を舐め回されるくすぐったさに腰をよじる。出せども出せども乳房はなおも張って体液を滴らせている。乳首を押し潰すように舌で舐られ、際限なく母乳が湧き出す。この乳はそもそも赤子のために製造しているものなのに。それを必死に吸い出す膝丸は、やがて腹の子の父となるというのに。

「はあっ……あ…膝丸…っ」

 手の下のものが硬度を増す。彼の絶頂が近いことを知って、包んだ熱の塊をぎゅうっと締め付けてやる。もう片方の手を、未だ乳に吸い付いている膝丸の頭に伸ばした。手触りの良い髪をいいこいいこするみたいに優しく撫でてあげる。愚かで可愛い私の子供。

「ん…、膝丸……愛してるよ」

 びくんと膝丸の体が震えて、同時に熱いものが噴き出してきて手を汚した。受け止めきれなかった白濁が勢いよく下腹部にかかる。搾り取るようにきつく指を絡めて陰茎を扱いてやると、びゅくびゅくと何度も跳ねて精を吐き出す。長い吐精は私の手と腹の間に精液の膜が張るまで続いた。絶頂を享受して震えていた膝丸は荒い息をしながらようやく乳房から口を離す。くちゃ、と食い込んでいた歯が浮かされて、唾液と母乳の混じったものが膝丸の口と私の乳房の間で半透明の糸を引いた。

「…いっぱい出たね」

 膝丸の精を受け止めた手を目の前に持ってくる。本来ならば実るはずのない付喪神の子種だが、奇跡なのか悪夢なのか分からないが、これが私の卵子と融合して新たな命を生んだらしい。丘のように膨らんだ下腹からは、かかった精液がゆっくりと横に流れていく。膝丸はぐったりとこちらにもたれかかってくるので、下腹部についた体液が彼の腹にも付着してしまうのだが、気にする様子もなかった。脱力してしまった彼の頭をなおも撫でてやる。

「……母様、辛くはなかったか」

 最後まで私を気づかう余裕はあるらしい。

「大丈夫だよ」

 ぽんぽんと頭を撫でていると、膝丸は甘えるように頬を擦り寄せてくる。

「早く貴女の中に体を埋めたい。早く子供が産まれるといいな」

 セックスがしたいから胎児が邪魔だと言っているようなものである。このままでは膝丸が父になる未来を想像できない。
 横向きに抱かれて、精液でべたべたの下腹部に手を当てられる。お腹が膨らんでいるのを再認識すると、子供が産まれるのが怖くなる。私はまだ赤ん坊の母親になんてなりたくないのだ。それも人間の子ですらない、刀の化け物の赤子など。
 甘える膝丸の頭を撫でながら、子供が生まれたら今度こそ私たちの関係を隠しきれないなと、薄ら暗い思考を続けていた。


スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。