※強姦

ひやりとした秋の夜風に吹かれて酔いが徐々に引いていくのを感じた。庭では月が煌々と光っている。

「膝丸、迷惑かけてごめんねー」

間延びした声で謝るが、膝丸は余計に苦々しい顔をするのみだった。黙ったまま部屋に連れて行かれる。戸口の前で「ここで大丈夫だよ」と伝えるよりも先に戸を開かれ、あらかじめ敷いておいた布団の上に寝かされてしまった。

「もうお休みになるといい。俺は戻るが、水が必要ならお持ちしようか」

しかめっ面をしながらも私の心配をしてくれるところが可愛い。酔っ払っているせいか正常な判断ができなくなっていて、私は離れかけた彼の腕を掴んだ。引き寄せた手を頬に擦り付けると、彼はぎょっと身を固くする。

「膝丸の体、冷たくて気持ちいいね」

元々膝丸の体温は少し低いようで、今は私の体が熱いせいもあり触れている彼の体がひんやりしていて気持ちいい。
『必要以上に接触してはいけない』。死守してきたはずの決まり事が脳裏によぎったが、手元にある心地よさに目が眩んだ。

「もう少しこのままでいて」

言葉を失ったように瞬く瞳がしばらく私を見据え、数秒の後にはゆっくりと体を近づけてきた。布団に寝転がる私の隣に横たわり、背の方に腕を伸ばしてくる。ためらいを滲ませながらも回された腕の力は強く、ぎゅっと抱き寄せられて体が密着する。服越しにぬるい体温が伝わってきた。

おやおや、抱きしめてもらうまでは期待していなかったんだけどな、と思いながらも、まあいっか! と私も彼の背に腕を回した。こうして抱き合うのはいつ以来だろう。ほんの数ヶ月前までは私の胸に彼が顔を埋めていたのに今では逆になってしまった。頼りないほど細く薄かった体は倍ほどに骨格が広がり固い肉がついて、強靭かつしなやかな男の体になっていた。

「大きくなったねー…」

背中に回した腕を曲げて、後ろから彼の頭を撫でる。小さい頃の彼の姿が念頭にあるからいつまでたっても子供扱いしてしまうのだ。
膝丸は私の肩に頭を預け、耳元で低い声を吐く。

「酷い人だ」

ぼそりと呟かれたので何と言ったのか聞き取れなかった。ん? と聞き返しつつも頭を撫でるのをやめない。髪の手触りが気持ちいいのだ。
遠くでかすかに刀剣たちの談笑する声がする。私の部屋は大広間から渡り廊下を介して離れたところにあるので、皆の声や気配はほとんど届かない。代わりに夜の静けさが柔らかく部屋全体を包んでいた。

「兄者のほうがお好みか?」
「え?」

突然吐き捨てるように投げかけられた質問に事態が掴めずぽかんとする。膝丸の顔は見えないが、地を這うような低い声色から苦虫を噛み潰したような表情をしているのが予想できた。

「俺より兄者のほうが好みなのかと聞いているんだ」
「…なにそれ。好みとかないよ」

髭切も膝丸も大事な刀剣男士の一振りであり、見た目や性格の問題で誰かを特別に贔屓するということはない。そんなこと、本丸の刀剣たちに接する私の態度で分かっているだろうに。

「兄者と話している時のほうが楽しそうだったではないか。それとも俺は貴女にとっては子供に過ぎないから兄者と同列には扱えないのか」
「どうしたの膝丸。妬いてるの?」
「ああそうだ。たとえ兄者であろうと貴女を奪われたくないのだ」
「奪うって。なにを心配をしてるんだか。髭切にそんなつもりはないだろうし、私だって誰かを特別扱いすることはないよ」

膝丸は頭を離して私を見る。じとっと睨んでくる目には不満の色が浮かんでいた。

「俺を一番可愛がってくれるのではなかったのか、母様」

…ああ、膝丸は自分が私にとっての『特別』だと思っているのか。
小さい頃から存分に私の愛を注がれてきた彼がそう思うのも無理はなかった。確かに幼子の膝丸に付きっ切りで世話をしてきたので特別な愛着はある。
難しい顔をしながら『俺を一番可愛がってくれる』なんて加州みたいなことを言うのがおかしかった。

「…ふふ、うんうん、一番可愛いと思ってるよ。膝丸のことは我が子同然に大好きだよ」

宥めるように背中をぽんぽんしてあげると、彼は少しだけ表情を和らげた。こんな行為で機嫌が良くなるのがちょろいなあと思う。

「…そうだ、母様に頼みがあるのだ」

いくぶん甘えたような口振りになる。

「ん? なにかな」
「俺が貴女を母と呼んでいることを、兄者には知らせないでほしい」

気恥ずかしそうに彼が告げたのはそんな可愛らしい要求だった。

「主をお母さん扱いしていることがバレたら恥ずかしいの?」

仮にも膝丸は千年近い時を生きているはずの刀の付喪神である。本来であれば彼からすれば私の年齢なんて赤子同然だろう。事情があって私は膝丸の親代わりになってしまったが、やはり彼は誇り高い源氏の宝重であり、ただの人間を母とみなし慕っているのがお兄さんにバレるのは矜持が許さないのかもしれない。
と思いつつも、発想が反抗期の子供のようで可愛らしいなあとつい微笑んでしまう。

「大丈夫、知らせたりしないよ。他の刀剣たちにも言っておくね。私のことをお母さん呼びしてるのが兄者に知られたら恥ずかしいもんね?」

だから膝丸も親離れするんだよと頭を撫でると、彼はぶんぶんと駄々っ子のように首を振った。

「違うのだ、母様…。貴女が俺の母親ということは、兄弟である兄者にとっても母親ということになってしまうだろう? 貴女を母と呼んでいいのは俺だけなのだ。兄者であってもそこは譲れない」

拍子抜けしてしまう。なんだその理屈は。お母さんをひとりじめしたいということか。いい歳して見た目も大人なのにおかしな独占欲を発揮するものだと呆れる。

「うん…まあ、構わないけど…。でも膝丸、ずっと私にべったりしてたら駄目だよ? もう大人になったんだから」
「母様はそればかり仰るな。俺はこんなにも貴女のことを想っているのにどうして離れなければならないのだ」

マザコンの度が過ぎるよ、と苦笑しようとしたところで膝丸が私の顔をのぞきこむ。その瞳にぎらついた光を見てしまって、急にひやりと腹の底が冷えた。

「貴女の言動は一貫しない。大人になったと言いながら俺を寝所に留めて、あげく腕の中に抱かせて、どういうおつもりなのか」
「え、」
「俺はもう子供ではないと何度も言ったはずだ。貴女も分かっているだろう?」

以前に感じた嫌な予感が再来して胸の中で膨らんでいく。危機を感じて体を離そうとしたが、抱き締められた腕がきつくて身動きが取れない。長い腕と足に締め付けられて、さながら自分が捕獲された動物のように思えた。

「膝丸、なんか怖いよ。離してよ」
「これを望んだのは母様だろう」

ひんやりした手が頬に当てられる。目前に鋭い光を放つ瞳が迫ってきて、本能的な恐怖で体が竦む。

「もういいよ。もう十分だから。離して」
「そうやって貴女は俺を遠ざける。最近は話をしようとしてものらりくらりと躱すばかりで、どれだけもどかしい思いをしたことか。この機会を逃すわけなかろう」
「……ねぇ、こんなのおかしいよ」

絞り出したかのような声は震えていて、私の動揺を表していた。

「私と膝丸は親子みたいなものでしょ? 今までずっとその関係でやってきたじゃない。だからやめよう、こんな変なことは」
「……ならば昔のように甘えさせてくれ」

言うなり、彼の手が私の襟を掴む。ひっと息を呑んだ瞬間にはもう遅く、胸元を肌蹴られていた。咄嗟に彼の腕を押さえて抵抗するが、成長しきった男の力にはかなわなかった。外気に晒された胸元が一気に寒くなる。それは冷たさだけではなく恐怖のためでもあるのは明らかだった。

「嫌だ、やめて」

一瞬で肌着まで捲られ剥き出しになった素肌に手を当てられ、今度こそ全力で拒絶の声を上げた。
膝丸は私の抵抗なんて意にも介さず、上に乗りかかってきて胸に口を寄せる。熱く濡れた舌が先端を舐め、続いて乳房の一端が口内に包まれた。鳥肌が立って全身が硬直する。

「嫌だ嫌だ…、なんでこんなことするの」

ほとんど泣き声になって尋ねる私に、彼はちろりと金の目を向ける。

「昔はさせてくれたではないか、母様」

かつて私の乳を求めて抱きついてきた幼子の姿はそこにはなかった。狂気の滲んだ獣のような目で柔らかい肌を貪る男がいるだけだった。
じゅるじゅると音を立てて乳房を吸われる。刺激で固くなった突起に歯を立てられて、意思に反して体がびくんと跳ねた。片方を口に含んだまま、もう片方の乳房を大きな手で捏ね回してくる。体を起こそうとしても上にのしかかられて身動きが取れない。必死に肩を押して彼の体を遠のけようとした腕は、邪魔だといわんばかりに押さえつけられた。
どうしてこんなことになった? いつの間に、いたいけだったあの子がこんな欲情を孕んだ目で私を見るようになった。
怖いのと気持ち悪いのと、それよりもずっと悲しくて涙が出た。

「私は膝丸を本当の子供のように愛してるんだよ」
「俺も貴女を本当の母のように愛している」

唾液まみれの胸元から顔を上げて、初めて彼の瞳が哀切な色を放った。

「母様、覚えているだろうか。俺がまだ短刀程度の年齢だったころ貴女の乳を吸わせてもらったことがある。俺が眠りにつきかけた時、貴女が苦しそうに悶えていたのを感じた」

頭から血の気が引いていく。記憶の糸を辿るまでもなくあの時の光景がすぐにフラッシュバックした。私にとってはほんの数ヶ月前のことである。膝丸に胸を吸わせながら性的に反応してしまった時のことだ。幼子の前で自慰してしまった罪悪感は心に刻み込まれて忘れようもなかった。
まさかそれを知られていたとは。

「あの時の俺は行為の意味が分からなかったが、ご自身で慰めていたのだろう? 今なら俺が貴女の相手をできる。この身は貴女が生み育ててくれたものだ。貴女を悦ばせるために使わせてくれ」

そんなこと望んでいない。しかし口に出すよりも前に、股の間に膝を押し付けられてじんと痺れが走る。膝丸はうっと息を詰めた私の手を取ると、目の前に引き寄せ、握った手を愛しげに見つめながら、

「母様のこの小さな手ではご自身の奥まで届かないだろう?」

包み込んできた長い指が私の指の間に割り込んでくる。いつの間にか私の手より大きくなってしまった手のひらが、逃がさないと言うかのように密着してくる。ぞわりと腹の奥が粟立つような感覚がした。

「やめてよ、膝丸、私は自分の子供とこんなことしたくない」

頬に涙が伝うのは抑えようもなかった。喉が震えて嗚咽が混じりそうになるのを飲み込み、私は精一杯拒絶の意思を伝えるが、彼は悲しみとも喜びともつかぬ表情で顔を寄せてくる。

「俺が打たれた時代は母子が姦通するのは珍しくなかったのだ。ましてや俺と貴女は本当に血が繋がっているわけではないし、何をためらうことがあろうか、母様」

流れた涙を舌で舐め取られた。そのまま耳から首筋へと舌を這わされて湿った感触が広がっていく。片手で顎を押さえられて、喉の横にがぶりと噛み付かれる。

「ひっ…ぃ、痛…っ」

首筋から肩へと場所を変え何度も噛み付かれ、鋭い痛みがぴしぴしと走る。膝丸の歯は尖っているのだ。軽く当てられただけで肌に食い込み痕をつけられているのが確認せずとも分かった。
肌蹴た着物の合わせに手を入れて下半身まで捲られていく。蹴り飛ばそうと足を上げたが、逆に膝の裏に手を入れられて持ち上げられてしまった。肌に貼り付いている下着に合わせて彼の手が足の付け根をなぞっていき、冷水を浴びせられたかのような戦慄が体を抜ける。

「やだ…、やめて、触らないで」
「悪いがずっと抑えてきたのに今更止められるわけがない」

低く呟いて指を秘部に滑らせてくる。一体いつから私に対する劣情を募らせていたのか。尋ねたところで気休めにもならないしこの強姦が中断されることもないので、割れ目をなぞる指にせめて意識を集中させないようにと唇を噛み締める。
必死に彼の腕を払おうとしてみるがなけなしの抵抗も虚しく下着を剥ぎ取られて早急に秘裂を暴かれる。初めて見るであろう女のそこに、膝丸は不慣れな手つきで冷たい指を這わす。

(刀剣男士は神とも化け物ともつかぬ存在です)
(あなた様が抱いている感情とは別の想いを抱いているやもしれません)
(ご自身にその気がないのに強姦などされぬよう)

今になってこんのすけの言葉が現実味を持って胸に迫った。どうしてもっと気をつけて接しなかったのだろう。距離が近すぎると忠告されていたのに。狭い裂け目のなかで指がばらばらに動いて、快と不快が入り混じった感触に腰が揺れる。嫌だと思っているのにやはり良いところに当たれば痺れるような快感が走り、当たらなければもどかしいと思ってしまう己が憎々しい。
漫然と秘裂を擦り上げていた指が唐突に固く膨れつつある陰核に触れた。思わず嬌声が漏れて咄嗟に口を押さえたが、一際大きく跳ねた私の反応を見過ごす彼ではない。蕾を挟み込んだ指をゆっくりと上下させられて今度こそ抑えられない悲鳴が漏れた。

「…ここが善いのか?」

そういえば昔から物覚えの良い賢い子だったな。ほんの数ヶ月前の彼の姿が走馬灯のように蘇ってきて、我が子の出来の良さを誇らしく思うどころかこんなに関係が変わってしまった悲しみに胸が押し潰されそうになった。あの頃の幼子はもういない。溢れてきた愛液を塗り付けるように陰核を捏ね回され、下半身全体が甘く痺れて子宮が疼いてしまうのを感じた。狭い肉をこじ開けて指が入ってきた時にはもう抵抗する気力がなくなっていた。彼の言葉通り、その長い指は私の指なんかでは到底届かない深部のほうまで入り込む。中を掻き回しつつ私が腰を跳ねさせる場所を学習し、次第に感じるところばかりを目敏く擦り上げてくる男の手に情けなくも翻弄される。

「んっ…あぁっ…! やだっ…嫌…!」

嬌声混じりの言葉はほとんど拒絶の意味をなしていなかったが、なにを思ったのか膝丸は指を抜いてくれた。代わりに体を倒して私の脇に肘をつき、肩を押さえつけてくる。
片手を袴の後ろに回したのが分かって、私は一気に蒼白になった。

「ねぇっ、それは本当にっ、駄目だよ…!」

一線を越えてしまうことだけは避けたかった。押さえられていないほうの手で肩を押すが、私より一回りも二回りも大きい体は当然びくともしない。
暗がりの中で化け物のように光る瞳が、怯える私の姿を映して凶悪に微笑む。

「母様はいつも俺のすることを許容して下さっていただろう。なれば貴女を犯し汚したいというこの浅ましい獣欲さえも許して下さるだろう?」

凍りつく私に顔が近づき、ちゅ、と初めて唇が落とされる。乾いた唇をひと舐めしたあと、もはや絶句して身動きも取れない私に薄く微笑みながら彼は半身を起こし両手で袴を下ろした。続いて下履きをずり下せば、すでに勃ち上がっている性器が開放を待っていたかのように飛び出した。
腹につきそうなくらい反り返ったそれを信じられないような気持ちで眺める。両手で腰を掴まれて引き寄せられ、ぬるい手が太ももを開き、滑る秘裂に先端が当てがわれたところでようやく我に帰った。

「やめて」

引き攣った顔と声で懇願するが、もう手遅れだと頭の片隅では理解していた。

「許してくれ、母様」

ぐっと力を込めて欲の塊を押し込まれる。犯される。もう逃げられない。心のどこかで行為に及ぶのだけはやめてくれるだろうと信じていたのに、その僅かな期待も呆気なく砕かれた。
先端が入ってしまえばあとは抵抗なく柔肉の中に飲み込まれていく。強烈な異物感と鈍痛、それに掻き消されないだけの確かな快感を覚えて背筋が反る。

「あっ…!! やっ、やだ、膝丸、やめて…っ!!」
「…っ、貴女の中は、すごく柔くて熱いのだな…」

膝丸は苦しげに息を吐いて、狭い肉壁の奥をこじ開けるようにさらに腰を進める。これ以上ないほど奥にこつんと先端が触れると、深々と挿入されていたものがぎりぎりまで引き抜かれて、またゆっくりと突き込まれる。

「んあぁっ! ああ…っ、だめ、だって!」

痛みがあったのは最初の数往復くらいで、すぐに中を押し広げられる快感で頭がいっぱいになる。揺すられるたびに肉棹で塞がれた奥から愛液がどっと込み上げてくる。馬鹿な体は私自身の意思に反して、中の雄の形を覚えこもうとでもするかのごとく襞の一つ一つを蠕動させて絡みつく。

「はぁ…っ、ずっと、貴女とこうしたかった…!」

歓喜に声を震わす膝丸が体を倒して上に覆い被さってくる。顔の両側を肘で挟まれて頭を固定されたあと唇を塞がれた。ぬるい体温の舌が口内に侵入してきて、口蓋を、歯列を滅茶苦茶になぞる。

「んっ…! む…っ…ぐ、ッ!!」

口を吸われながらも体重をかけて奥を抉るように腰を打ち付けられる。上も下も犯されて苦しくてたまらない、苦しいはずなのに、甘ったるい声が口の端から溢れるのはなんでだろう。大きな手で耳を塞がれて水音が頭蓋内でびちゃびちゃと響く。
逃げようと腰を引いても、揺すり立てる動きと合わさってさらなる刺激を生むだけだった。

「母様…こんなに深く、貴女の中に俺が入っている…っ、分かるか?」
「ああっっ! ぅあ…ッ、やだぁっ…! 」

肩を押し返していた腕がどんと床に縫い付けられる。恋人同士のように指を絡められてきつく握られ、互いの体の動きに合わせて床に擦れる。

「ああ…ここが、この中が、子を育てる器官なのだろう…? 俺も入っていたかった…貴女の胎から生まれてきたかった…! どうして貴女は人間で俺は刀なのだ…!」

狂気にとらわれているとしか思えない。がんがんと子宮口を突かれて鈍痛と悪寒が腰回りに走る。こんな内臓の奥の奥まで膝丸に犯されて欲のままに汚されていると思うと悲しくて絶望的で、それなのに興奮する体は止めどなく蜜を吐き出し陰茎を締め付けてもっともっとと強請る。

「ひ、ひざまる、んっ…! も…やめて…っ!」

ぼろぼろと涙が伝うのは悲しみのためなのか快楽のためなのか。こんなの望んでいない、ただの凌辱であるはずなのに気持ち良い。気持ち良くておかしい。
私の制止の声なんて聞いてもいないのだろう、膝丸は胸元に顔を寄せ、先端の尖りに歯を立てる。足の付け根から下腹部にかけてきゅうっと締まる感覚がして、中にある彼のものを扱き上げるように密着する。

「あ…っ…、あ、そこ…っ、だめっ!! ああっ、擦っちゃ、んあっっ!!」

膝丸は長い舌で犬のように胸を舐めながら腰を振り続けている。ちょうど雁首の張った部分が膣壁の溝に嵌まり込んで、腰が砕けそうな強烈な痺れが走った。

「…ここが善いのか…。俺で感じて下さっているのか…っ、ああ…可愛らしい…」

私の感じる場所を探り当てた膝丸はそこを重点的にごりごりと攻め立てる。弱いところを執拗に抉られて戦慄みたいな快感が全身を侵食していく。

「母様…お慕い申し上げる…、恋い慕っておるのだ」

遅すぎる告白の言葉が熱っぽく耳朶を打つ。それが嘘偽りない純粋な恋情だったとしても、無理矢理に体を奪って想いを遂げようとする狂行を甘受できるわけがない。

「や…っ、止まって…!! それ、きもちい…い゛っ、ぁあっ!」

嫌だとか駄目とか拒絶の言葉を吐きたいのに、いつの間にか愉悦を伝える声しか出てこなくて己の体のままならさに絶望する。
指を絡ませていた片手を離して、彼は私の胸に手を這わす。突き上げられるたびに揺れる乳房を鷲掴みにして、手の中で形を変えるみたいに捏ね回す。
固く立った乳首を痛いくらいぎゅうと抓られて、光が弾けるように目の前が真っ白になった。

「んああっっ!! や、だッ!! 膝丸っ! 膝丸!!」

助けを求めるように目の前にあった彼の体にしがみつく。力の加減なんてできずに思いきり爪を食い込ませれば、痛みに強張った膝丸の体がぐ、と奥で押し留まる。それでもう限界だった。
びくんびくんと腰が痙攣して同時に爪先から脳まで貫くような快感が走る。中に入っている異物を噛みちぎろうかという窮屈さで膣内が収縮し、ぐっと子宮口が降りてきて亀頭に吸い付いた。

「……っ!?」

声にならない悲鳴を上げて絶頂を享受している私の体は、 同時に自分を犯している男の体も絶頂に追い込もうとしていた。

「…っ、出そうだ…、いいだろう? ぅ…このまま、貴女の奥に…ッッ…!」
「ひっ、あ、だめっ!! 中、出したら…、あああっ?!」

がくんと一際強く打ち込まれて、達している最中なのにさらなる快楽の中に突き落とされる。ぐちゃぐちゃと湿った肉がぶつかり合う激しい摩擦音が脳を麻痺させる中、訳が分からないままに体内で彼の性器が跳ねるのを知覚した。
叩きつけるように精を吐き出される。腹の中を灼くように熱いものが広がっていく一方、頭の中は凍りついていった。

「………っ…」

絶頂の余韻と絶望で体が動かない。
私の横に顔を埋めて荒い呼吸をしている膝丸を振り払うこともできず、呆然と天井を見上げていた。奥深くで脈打っていたものがようやく収まったころ、彼はゆっくりと顔を上げた。

「……は、あ…、貴女の中に俺の子種が……。分かるか…? ここに、注ぎきったな…」
「……、あ……やだ………」

軽く体を引かれて結合部がぬちゃりと嫌な感触を生む。改めて、中に注ぎ込まれた事実が私を震撼させた。
だがふと、かつてこんのすけに言われた一言が胸によみがえる。

(刀と人間では妊娠しない)

それが本当であるようにと願う。あの時は不快極まりない台詞でしかなかったが、今となっては唯一の救いのように思えた。

「もうやだ……、ね…、もういいでしょ…? 抜いてよ……」

喘ぎ声以外の、意味のある言葉を吐くのにこんなに力が必要だとは思わなかった。脱力してしまった体は声帯を震わすことすら億劫だと訴える。それでも一刻も早くこの責め苦から解放されたかった。
しかし膝丸は衰弱しきった様子の私を見て、甚振るように目を細める。

「まだ貴女の中を堪能しきっていないからな」

ずる、と二人ぶんの体液で濡れそぼった性器が引き抜かれる。しかしそれは完全に外に出る前に再び奥に突き入れられた。

「…う、…んッ!!?」

信じられない気持ちで目の前の膝丸の顔を見上げる。欲を吐き出したというのに少しも萎える気配のない剛直が私の肉壁を掻き分け始めた。

「ぅあっっ!! やだ…ッ! 膝丸、っも、許して、ゆるして、っあぁ!!」

半身を起こしてさっきより激しく抽送を繰り返す。縋り付くものを失くした私の腕は虚しく空を切り、せめてもの気休めとしてシーツに爪を立てる。
規則的に律動しながらも、膝丸は着っぱなしだった上半身の服に手を伸ばし器用に脱ぎ始める。己の服を脱ぐと、私の胴にかろうじてまとわりついていた着物を外しにかかった。乱雑に帯が抜かれて、今度こそ一糸纏わない素肌がさらけ出される。

「貴女はどこもかしこも柔らかいな…」

指が腹に食い込む。内側と外側の両方から内臓を圧迫されて再度軽く達した。
膝丸は仰け反って喘いでいる私の上にまた体を寄せ、背の後ろに腕を回してくる。汗ばんだお互いの素肌が密着した。男の固い胸に押し潰されそうになる。ひんやりしていた体温は上昇し、今や私と同じくらいかそれよりも熱くなっていた。

「あっ、ひざまる、膝丸っっ! やらぁ、もっ、苦しいよぉ…!!」

名前を呼ぶ声が鼻にかかった嬌声にしかならない。快楽に溶かされて本当に頭が馬鹿になってしまったんじゃないか。

「母様、俺の手で乱れる貴女は本当に可愛らしい…。もっと俺を見てくれ…こっちを見て、俺を、俺を、誰より愛していると言ってくれ…!」

容赦なく内部を穿つ腰の動きに翻弄されて、意味のある言葉が出てこない。

「お慕い申し上げる…、愛しているのだ…。俺たちは相愛だろう? 貴女も俺を愛していると言ってくれただろう?」
「なにを、ッ、いって…!?」
「今まで何度も、俺を愛していると伝えてくれたろう? 本当の子供のように大好きだと、愛していると……!」
「だからって、こんな、っあ、こんなの…ッ!!」

いくら愛していようと、自分の子供と姦通したいと誰が思うだろうか。この男には親子の愛と恋人同士の愛の違いが分からないのか。やはりこれは化け物なのだ。人の心の機微なんて理解し得ないのだ。
しかし、反論したくとも口をついて出るのは喘ぎ声ばかりである。何度も絶頂に追いやられた体は膝丸を受け入れて悦ぶように作り変えられてしまって、首に手を回して抱きつき、足を絡めて、彼の与える快楽を一寸たりとも逃さまいと締め付ける。

「母様、今一度俺のことを好いていると…、愛していると、言ってくれ…っ! 愛し合っているのだと、実感させてくれ……!!」
「んあっ、ひざまる…! んっっ、はぁっ…あ…すき…すき…っっ!! きもちい、あっ…すきっっ!」

覆い被さってくる膝丸の髪が胸に垂れてくすぐったい。手を伸ばして長い前髪を耳にかけてやり、頭を抱く。何度も繰り返したやり取り、するするした手触りの良い髪の感触。これが私は大好きなのだった。

「ああっ母様……! 俺も愛している…!! ずっと愛しているのだ…!!」

もう何もかもが手遅れなのだと、二度と元には戻れないのだと、快楽に支配された思考の片隅で悟った。

意識が遠ざかる中、耳元で譫言のように母様、母様と繰り返す声を聞いていた。

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