2

 一月もすると膝丸は他の短刀と同じくらいの見た目にまで成長した。
戦うことが本分である刀剣男士とはいえ、幼児を敵軍の前に立たせる気になれなかった私は今まで膝丸に出陣を命じたことはなかったのだが、そろそろ簡単な遠征などから始めてみようかと思った。面倒見のよい岩融や、よく膝丸と遊んでくれている短刀の数振りと共に、簡単な見回りの任務をまかせることにした。練度の高い彼らと一緒なら万一のことがあっても大丈夫だし、気心知れた仲間たちだから膝丸も安心だろう。
遠征に出る膝丸は半日ほど私と離ればなれになる。いつも私の姿を見ると駆け寄ってきて後をついて回るべったりべったりな甘えっ子だが大丈夫だろうか。

「行ってくる! 留守のあいだ、母様をよろしくたのむ」

見送りに出た私に手を振り、後半の言葉は隣に控えていた近侍の加州に向けて言い放つ。私と加州ははいはいと手を振り返し、彼らが城門を抜けて時代を遡っていくのを見守った。

「ねー主。可愛いのは分かるけど、あの子甘やかしすぎなんじゃないの?」

執務室に戻ると、加州が書類の整理を手伝ってくれながら唇を尖らす。私は苦笑した。

「そう? 子育ては初めてだから加減がよく分からなくて」
「そーだよ。だってこの一カ月、主あの子につきっきりじゃん。もうちょっと親離れさせたほうがいいと思うけど?」

加州の顔にはありありと、『主が構ってくれなくて寂しい』と書いてあった。今度は苦笑でなく加州の可愛らしさに笑みがこぼれる。むくれ顔の彼の頬を指でつつく。

「ごめんね。これでも加州や他のみんなが手伝ってくれるから助かってるんだよ」

加州はちょっと頬を赤らめ、ふーんと気のない返事をしてそっぽを向く。
意外にも子供の扱いに慣れている加州は、私が忙しい時によく膝丸の子守をしてくれるのだ。庭の草花の名前や、おはじきや折り紙での遊びを教えてくれたのは彼である。お気に入りの一張羅が汚されても嫌な顔一つせずに遊びに付き合ってくれていることを私は知っていた。

「……ま、俺、子供は嫌いじゃないからさ。主が俺のこともちゃんと可愛がってくれるなら、これからも協力するよ?」

茶目っ気たっぷりに振り向いた彼に破顔する。まったくうちの刀剣はみんな可愛らしい良い子ばかりだ。





「母様〜〜〜!!」

帰ってくるなり、膝丸はぴゃーっと泣きながら私のもとに駆け寄ってきた。腰に下げた体躯に合わない太刀がびよんびよんと揺れて地面にぶつかっている。勢いよく飛び込んできた彼の背は私の胸元くらいまである。出会った頃は腰にやっと届くかというくらいだったのに大きくなったものだ。泣き虫なのは変わらないが。
抱きついてくるなり早々胸元に顔を埋めてきた彼に、とりあえずぽんぽんと頭を撫でてあやしながら声をかける。

「おかえり」
「うっ、うう、おれはもう遠征には行かないぞ…!」

威勢良く出発したのはほんの半日前のことだというのに今やこの情けなさである。膝丸のあとに続いて帰ってきた遠征部隊を見やると、彼らも呆れた顔で笑っていた。簡単な遠征だったので全員無傷だし疲労の様子もない。大きな背に軽々と資材を乗せて持ち帰ってきてくれた岩融が、私に引っ付く膝丸を見て口角を吊り上げる。

「おお、主よ、ご子息は母君に会いたい一心で早足で帰ってきたのだ。初めての長旅であったが道中で弱音を吐くことはなかったぞ。労ってやっておくれ」

笑う岩融のぎざぎざの歯がにぃっと剥き出しになり、顔を上げた膝丸がそれを見てびくりと慄いてまた顔を伏せてしまう。いかに彼が温厚な人柄だと分かっていても、この歯並びの凶悪さは怖いものがある。
私は怯える膝丸を撫で続けながら、岩融たち遠征部隊に感謝の言葉を述べた。

「みんなありがとうね、大変な役を任せてすまなかった。おかげで無事に帰ってこれてよかったよ」

膝丸も、と長い前髪を掻き分けて顔をのぞきこむ。涙に濡れてべちょべちょの瞳が私を見返してきた。

「よくがんばったね。いいこいいこ」

また加州に甘やかしすぎだと怒られてしまいそうだが、膝丸が初めての遠征を無事やってのけたことが嬉しくて、自然と褒める手つきも優しくなり頬も緩んでしまう。膝丸が親離れ出来ていないことは明らかだが、私も相当な親バカなのかもしれない。

「あう……今夜はいっしょに寝てくれ、母様……」

しょうがないなあと苦笑したが、一番私に懐いてくれていると思うと小さな独占欲のようなものが満たされて嬉しくなるのだった。




その夜、布団に潜った膝丸はさも当然という顔つきで私の襟を開こうとしてきた。

「こ、こら! 急になにするの!」

必死にそれを阻止しながら声を荒げると、

「? 乳を吸わせてくれ」

彼はあっけらかんと言い放ち小さな手を胸元に突っ込む。子供の細い指が素肌に触れて、思わずひゃっと息を飲んで両手で胸を覆った。

「母様、どうしていやがるのだ」

不思議そうに首を傾げる彼はあくまで無邪気で、下心なんてまるでないのは目に見えているが、ここまで大きくなった子に乳を咥えさせるのは育児初心者の私でもさすがにおかしいと分かる。
己の心を落ち着かせながら、私は膝丸の手をゆっくりと握る。

「あのね、膝丸…。もう膝丸はお兄さんになったんだから、お母さんのおっぱいは卒業しようね」
「なぜだ? おれはまだ子どもの姿だぞ」
「……そもそもね、お乳吸うのは赤ちゃんまでなんだよ…。こんなに大きくなってもおっぱい吸ってたらおかしいよ…」

しかし彼は不服そうな表情で私を見上げる。一月前よりずいぶんと凛々しくなった顔つきは成長後の本来の姿の片鱗を見せてはいたが、鋭い割には甘ったれた色を宿す目は最初のころと変わらなかった。

「どんなに大きくなろうとおれは母様の子どもだろう。母様の乳を吸うと霊力がたくさん入ってくるのだ。早く成長するためには必要なことではないか? それに今日は遠征であなたとはなれていた時間が長いから、余計に霊力が必要なのだ」

いつの間にこんなに小賢しくなったんだ…。呆気にとられる私の襟を驚くほどスピーディに開き、膝丸は唇を押し付けてきた。

「あわわ……ちょっと、駄目だって…、っひっ!?」

ちゅっと乳首を吸い上げられて腰に悪寒が走る。前より伸びた腕を背中に回し、しっかりとしがみついて胸に吸いつく膝丸は真剣な眼差しだった。母乳も出ないのにどうしてお乳を吸うことに執着するんだ。
しかも以前のようにただ吸い上げるだけでなく、舌の先で乳首を転がしたり軽く歯を立てたりと、どこで学んできたんだかおかしな技を身につけている。次第に快感を拾い始める己に危機感を覚え、私は一際大きく声を上げた。

「こらっ膝丸、離しなさい! っ、いっ、痛っ!?」

いきなりガブリと噛みつかれて、快感どころではない強烈な痛みが走る。私が本気で痛がっているのを見て膝丸は慌てて口を離した。

「す、すまない! つい噛みたくなってしまったのだ…。歯がぐらぐらしていて不快なのだ」
「え? 歯が?」

疑問に思って口を開けさせる。前歯の数本を指で触ってみれば、根元からぐらぐらと揺れた。

「あ、もしかして生え替わる時期なのかな」

まさか乳歯が抜けて永久歯に生え替わろうとしているとは思いもしなかった。ここまで人間の子供そっくりにできているのかと感慨を覚える。
つんつんと指で動かし様子を見ながら、無理やり抜くよりは自然に抜けるのを待ったほうが良いだろうなあ…と思っていると、膝丸はくすぐったそうに目を細めた。

「変なかんじだ。不安定で気持ち悪いが、なにかを噛んでいるとおちつく気がする」
「そっか…なら仕方ないね…?」

いや、仕方なくない。乳を噛んで良い理由にはならない。ならないのだが、私がついうっかり口走ってしまったせいで膝丸は許可を得たと思ったのだろう、再び私の胸元に吸い付き、今度は甘嚙みの要領で軽く歯を立ててくる。

「ひっ…駄目だってば…」

ぐにぐにと柔らかい乳房に歯を食い込まされ、いけないと思いつつも身体が反応する。痛みと快感の融合した感覚が下腹部まで熱くし、私はぎゅっと腿を閉じた。膝丸は目を閉じて口内で乳を弄ることに集中しているので、私の痴態を見られないのが唯一の救いか。

「はっ…、ひざまる…っ、ん、今日だけだからね…」

頼むから早く寝てくれ。このまま吸い続けられたら本格的に火が灯ってしまう。私は手が震えそうになるのを抑えながら、彼を寝かしつけるために背中を叩く。膝丸は満足そうに乳首を口に含んだまま目を閉じている。
幼いとはいえ小学生ほどの見た目の端麗な顔立ちの少年に乳を吸われているのは背徳的で、正直興奮した。我が子同然の子供相手に性欲を掻き立てられるなんて最低だと思いつつも、一度その気になってしまったものはどうしようもなかった。
舌と上顎で擦り上げるように乳首を圧迫されて、背が跳ねそうになる。間断なく続く刺激にしばらく耐え、彼がようやく寝息を立て始めたころにやっと私は口を開く。

「はぁ……、膝丸……寝た?」

返事はない。軽く揺さぶってみても反応がないので、寝てくれたようだ。
しかし、ここは乳房に執着のある膝丸である。引っ張ってみても私から離れようとしない。乳首に食いついて離れない様はすっぽんみたいだな。
困ったな……この体の昂りを鎮めるには自分で処理するしかないと思っていたのだが、膝丸に引っ付かれたままだとやりにくいことこの上ない。寝ている子供の目の前で自慰する羽目になる。

「膝丸…離れて…。おーい…、あー…。やっぱり駄目かあ…」

押しても引いても彼はぴったりと密着して離れない。それどころか食いつかれたままの乳首が口内の肉と擦れて新たな性感を生んでしまい、私はほとほと困ってしまった。
いまさら諦めて眠りにつく気分には到底なれない。このままの体勢で致すしかない。大丈夫、声を出すわけでも激しく動くわけでもないし、バレないよね…。私はそろそろと利き手を自身の下腹部に這わす。下着の上から軽く圧迫するだけでじんと込み上げてくるものを感じた。乳を吸われながら感じていた体はしっかりと濡れており、異物を受け入れる準備が整っている。いやらしいことはなんにもしていないのに、ただ子供に乳を咥えさせていただけなのに、馬鹿みたいに感じてしまった体が疎ましい。怒りを押し込むようにぐいと指を強引に侵入させれば、たいした痛みもなく深部へと至った。
中のいいところに指を押し付ける。甘い痺れに全身が支配され、ぐちゅぐちゅと水音が響くのも気にせず掻き混ぜる。溢れた愛液で手のひらまで汚れた。

(なんでこんなに興奮してるんだろう…)

体が汗ばんで熱が上がる。視線を下ろせば私の胸にしがみついたまま眠る幼子の頭が見える。安らかな寝顔に、胸の中で罪悪感が広がっていく。

(膝丸……ごめんね)

こんな母でごめんね、どうか目を覚まさないで、と思いながら中を突く指が止まらない。別の指で硬く腫れた陰核を捏ね回せば、脊椎を貫く快感が電流のように走って、呆気なく私は達した。

「はぁっ、はあ…っ、……は」

何度も腰が跳ね、満たされていく感覚と共に生理的な涙が込み上げる。頬を伝ったそれがシーツに染みこんでいくのを知覚しながら、私はもう一度膝丸を見下ろして懺悔した。

「ごめんね…」

眠る彼にその言葉が届くことはない。
ぐっしょりと手を濡らした体液を自身の太ももに汚物かなにかのように擦り付け、私は涙を拭って瞼を閉じた。
ただの自慰なのに、いつもよりすごく気持ち良かったことが後ろめたかった。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。