二人きりになる空間なんてそれほどないし、だからその機会があれば最近はすぐにそうなってしまうのだ。
屋敷の中はしんとしていた。ほとんどの刀剣たちは出陣と遠征で出払っている。私の横に控えているのは山姥切ただ一人だった。
隣の部屋や廊下に刀剣がいる時でもキスくらいすることはあるが、さすがに致すことはない。この機会を逃すわけないな、とまるで他人事のように私は思う。

「今日はあったかいね」
「そうだな」
「暑いくらいだよね」

書き物を終えてしまった私たちは、時間を持て余してだらだらと歓談していた。
初夏の白い太陽光が障子戸から差し込んでくる。天気がよくて気持ちいい日だった。私と山姥切のお茶の入ったグラスがきらきらと反射し、氷の塊がゆっくりと溶けて濃淡の勾配を作っている。
話題が尽きてしまったところで、お互い口を閉じる。少しだけ沈黙が落ちた。私は山姥切の横顔を盗み見る。布で半分隠れた頬の曲線はなだらかで、白い肌がつるつるしているのが見て取れる。陶器のようだ。伏せた目元を見やると、驚くほど長い睫毛が目の下に影を落としている。全く嫉妬ものだ。苛つきと共になにか動物的な衝動が込み上げてきて、私は山姥切の肩に掴みかかった。

「っ?!」

じゃれるというには強すぎる力でしがみつく。突然の暴挙に山姥切は驚いてはいたが、すぐに表情を和らげた。

「なんだよ……」

呆れ半分、嬉しさ半分といった顔でこちらを見る。
触れている体が熱い。肩に頬を預ける。上目がちに彼を見上げると、顔を赤くして目をそらした。煽っていると思うと楽しくなる。肩から腕へと手を滑らせ、彼の手に重ねる。長くて綺麗な指だ。自分の指を絡めて、山姥切の指を弄んでいると、彼が小さく声を上げた。

「……主」

辛そうな声音で呟く。

「なに?」
「……」

山姥切は口を結んだまま、私の手をぎゅっと握った。ああやっぱり固いな、作り物のようでもちゃんと男子の体なんだなと再認識する。
そのまま腕を引かれて、彼の胸に倒れこむ。頭と頬に手を置かれて、顔を上げられる。鮮緑を間近にしたあと、降りかかってくるキスに目を閉じた。
卑怯だなと思う。堰が切れたように早急に求めてくるくせに、私が誘うまでなにも出来ないなんて。
軽く唇を触れ合わせたあと、舌で歯列を押し上げてくる。柔らかく器用に動き回る舌を受け入れ、刺激に応じてとめどなく分泌される唾液を互いに啜り合う。口の中に溜まるのが不快で、喉を鳴らして飲み込む。息も、苦しいけど、前よりは慣れた。柔らかく湿ったこの感触を好きかと聞かれたら、正直あまり好ましくない。ただ、このシチュエーションとか淫靡な雰囲気とかに興奮するのは確か。

「ん……」

最後に軽く吸うようにして、山姥切は唇を離した。

「主……いい?」

低い声で懇願するように尋ねられる。こんな必死に言われたら断れないし、求めてくれるのは嬉しいから、私は小さくうなずいた。
山姥切は服の上から体を弄ってきた。

「んん…」

体を縮こませると、首に噛みつかれる。ちゅうときつく吸われてさらに声が漏れた。

「そんなとこ…痕つけたら、駄目だよ……!」

形だけの抵抗をするが、山姥切は唇を離さない。さらに襟から手を突っ込んで直に胸を触り始めた。痛みと、ぞわぞわした感覚に鳥肌が立った。
柔らかい胸が山姥切の手に合わせて形を変える。ようやく唇を離してくれた山姥切はそのまみ首筋から耳元に舌を這わせる。両手で胸を揉みしだきながら、耳やうなじを舐めたり吸ったりする。びくりと体が跳ねた。勝手に声が漏れるから、私耳元弱いのかなと妙に冷静な頭で考える。
首筋がキスマークだらけになったころ、山姥切は荒い手つきで私の服を剥がしにかかった。強引に剥がそうとするものだから痛かった。胸元がむき出しになるとそのまま押し倒される。足に、熱を持った固いものが触れる。私に欲情してくれているんだなと思うと、嬉しさ反面、なぜか嫌悪感も込み上げる。
私の下半身の服を下ろすと、彼も自身の服を脱ぎ始める。さすがにセックスするときまで布を被っているつもりはないようで、ばさっと白い布を横に投げ、輝かんばかりの美貌があらわになる。
覆いかぶさってくる彼の熱が直に触れる。手を伸ばしてそれに触れた。すでにはちきれそうなほど勃ち上がっていたが、ゆるゆると扱くと手の動きによってさらに大きさを増した。

「大きいね」

山姥切はなにも言わず歯を噛み締めている。必死で刺激に耐えているようだ。
手でしばらく扱くようにすると、山姥切は声を震わせた。

「やめてくれ」
「なんで?」

聞き返すと目を逸らして、出そう、と吐息混じりに答える。当然だが私の中に入るまではイくわけにいかないのだろう。山姥切が涙目になっていたから私は手を離した。
すぐにでも中に入りたいのだろうが、さすがに愛撫もしないまま挿入するのは気が引けたようで、彼は私の陰部に手を這わせてくる。敏感な部分をなぞられて、反射的に声が出る。

「ひっ……ん…」

しばらく触るだけの刺激に耐えていたが、不意に内部に指が侵入してきた。異物感に顔をしかめる。気持ちいいというより、山姥切の綺麗な指が体内を弄っている事実に興奮して、とろとろと愛液がこぼれた。
指二本で搔き回される間、顔を手で覆って呻き声を漏らしていた。恥ずかしいから早く挿れてほしい。

「主……」

そう思っていると上から声をかけられた。

「挿れていいか?」

手を退ける。山姥切は息を荒げながら切羽詰まった表情で私を見つめる。緑色の瞳はぎらぎらと獣じみた光を放っていたが、こんな時でも美しかった。

「うん……」

恥じらいがちにうなずく。返事を聞くと山姥切は私の足の間に割り入り、指で裂け目を開く。吐き出した愛液が冷えて股が薄寒かった。
熱いものがぬるぬるの陰部を何度か行き来して、先端が入り口をとらえたかと思うと、一気に入ってきた。
思わず息を呑む。根元まで挿れられるとお腹の中がいっぱいで苦しかった。初めての時のような激痛はもうなかったが、体をこじ開けられる鈍痛はまだある。
山姥切は少しの間動かずに、肉の中に形を馴染ますように自身を埋めていた。落ち着くのを待って出し入れを開始する。

「ぁっ、うあっ……!」

余程我慢出来なかったのか、最初から激しく腰を叩きつけてくる。がくがくと体が揺すられて、視界が上下する。鈍い快感と異物感。内臓を突き上げられる感覚に自然と声が出る。

「んっ……ん、あ…」

出来るだけ感じているそぶりを見せるけど、本当は全然いいと思えない。熱く重量を持った塊が出入りするのをただ皮膚知覚として感じる。
体がぶつかり合う音と、自分が漏らす鼻にかかったような声が部屋に響く。この執務室はみんなの部屋から離れているし、ほとんどの刀剣は留守にしているから、誰かに聞かれることはないと思うけど。
早く終わってくれないかな。
そんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。大好きな山姥切と繋がっているというのに。情事に集中すべきなのに。
いつも滅茶苦茶に腰を振って果ててしまう彼を恨めしく思ったことはないし、むしろその未成熟さが愛しいとすら思っていたのに。
ああ、大好きなのにな。どうして不快感を感じるのだろう。好きな人と体を重ねて気持ちよくなれないこの体は、どこか欠損しているのだろうか。

山姥切は言葉を交わす余裕もないのか、ひたすら突き立ててくる。下半身だけ服をめくって性器を擦り合わせている様は、ひどく即物的で滑稽だろう。
再奥に打ち付けられ、一際鈍い痛みと快感らしきものがこみ上げた。

「あっ…ん…もっと」

もっと突いて、と掠れた声を上げる。今以上に深く強く突き上げ続ければ、なんだか別の感覚に達せられるような気がした。汗だか涙だか分からないものが目尻を伝う。山姥切は私の肩を両手で掴んで、激しく腰を叩きつけた。いっそう水音がうるさく鳴り響く。

「ああっ……!」

さっきより固く大きくなった彼のものが暴れ回る。山姥切はほとんど凌辱する勢いで私の体を貪る。

「…はあっ、主……!」

山姥切のほうが苦しそうな声を上げた。

「ん……」

私は手を伸ばして彼の腕に触れる。

「出そう……」

もう少し突き立てられれば気持ちよくなれるような気がしたが、終わるに越したことはない。

「うん、出して……」

優しく腕を撫でる。山姥切は体を起こすと私の腰を掴み、奥を抉るように肉棒を突き立てる。彼の終わりが近いことを察して、私も膣に力をこめる。ぎゅうっと柔らかい肉壁が彼の一部に絡みつく。
山姥切は低く呻いて欲を吐き出した。再奥に突き刺さたままびくびくと体を震わす。脈打って注ぎこまれる熱い液体。
私たちは子供を作ることが出来ないらしい。だからいつだってこうして生でセックスするし、中に直接精液を送りこまれている。
射精を終えた山姥切はまだ荒い息をしながらも性器を引き抜いた。混じり合った熱い体液がとろっと膣から溢れ出す。彼の体が離れると、汗ばんだ下半身が寒くなる。
山姥切は近くにあったタオルで私の体を拭いた。

「……ありがとう」

手早く服を直す。疲労感ですぐには起き上がる気になれず、額に手を当ててしばらく天井を見上げていた。山姥切は隣に横たわると腕の中に抱き締めてきた。じっとりと汗をかいて、室内の温度も数度上昇したように感じて、密着する体が暑い。
近くで彼の顔を見て、本当に綺麗な顔をしているなあとしみじみ思う。汗で髪は張り付いていたし疲れた顔をしていたけど、それも色っぽい。

「……主、良かったか?」

少し申し訳なさそうに聞いてくる。最中に気遣う余裕がなかった事を気にしているのだろう。

「ん、良かったよ」

唇で笑みの形を作ってみせ、山姥切のすべすべの頬を撫でた。
身勝手さも優しさも包括して山姥切が大好きだなぁと痛感する。同時に馬鹿馬鹿しくて滑稽だとも思う。なんでこんな行為に夢中になるのか。

「主、好きだ」
「私も大好きだよ」

山姥切がぎゅっと抱き締めてくる。軽く唇を押し付けられた。舌を絡めたらまた彼に火がついてしまいそうなので、そうなる前に私は唇を離した。

「愛してるんだ」

縋るような目で愛の言葉を吐かれる。きっと本心なんだろうが、依存とか執着とかどろどろした感情が透けて見えるから喜べない。少しだけ怖くなる。
私は黙って山姥切の頬を撫で続けた。
異種間でどうしようもなく求め合って情事に励む私たちは狂っているのかもしれない。私を失ったら山姥切は死ぬだろうし、逆に山姥切が私に執着を示さなければ、私が彼を雁字搦めにしただろう。
もう引き返せない。
後ろ暗い気持ちで思考を続けていると、再びキスされた。あっと思う間もなく舌を入れられる。
仕方なく、彼の舌が口内を動き回るのを許す。息が苦しい。キスしている時にどうしたら楽に呼吸できるのか、いまだによく分からない。目を閉じるのも億劫で、山姥切の長い睫毛が揺れるのを見ていた。
山姥切が足を絡み付けて体を引き寄せてくる。押し付けられた下腹部がまた固くなっているのに気づき、辟易しながらもそのままでいる。みんなが帰ってくる前にもう一回しようという魂胆なのだろう。
また体をこじ開けられるのだなと思って憂鬱になる。さっき放った精液がまだ充満しているのに。
狂ってる。馬鹿みたいに異種に盛って。
拒否できない私もとうに狂っているのだろう。
心の内に、好きと嫌いが斑模様に点を落とす。

きっとこのあとに浴びるシャワーはどんなに気持ちいいだろう。揺すられる視界の中、真昼の白い光にさらされて汗が光って落ちる。
大好きなはずの山姥切に抱かれながら、私は嫌悪感を押し殺すために無になろうと目を閉じた。


スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。