※強姦、救いがない


私の初期刀は加州清光という。
加州は私を主と呼び慕ってくるが、化け物じみた赤い目が気持ち悪い。

最初はふたりきりだったこの本丸にも、だんだん他の刀が増えてきた。戦力が増えるのは良いことだが、付喪神は何を考えているのか読めず、恐ろしい。いつか首を討たれるのではないか。
私の不安を感じ取ったのか、近侍の加州は私を護衛するためにそばにいたがった。夜闇が恐ろしいと言うと、ならば同じ部屋で寝たいと言われる。加州のことも苦手だったけど、他の刀に比べれば気を許していたので、申し出に応じた。
しばらくは、何事もなく過ぎた。夜間に危険な目に遭ったこともない。加州が近くにいてくれることは多少なりとも安心だ。
やがて、珍しい刀たちがやってきた。古い刀で、付喪神としての力も強い。見目は麗しいが底知れぬ恐ろしさもある。彼らの笑みを見ていると怖気立った。



突然それは始まった。ある夜のこと、急に衝撃を受けて目を覚ますと、赤い双眸が私を見下ろしていた。加州が私を開こうとしていた。
「止めて」
抵抗する私に、「ごめんね、主」と加州は泣きそうな顔で言い、呆気なく犯される。痛みと恐怖と嫌悪感、動かされるうちに目眩がして、逃げるように気を失った。


翌朝、横には誰もおらず、布団は綺麗なままで、ゆうべにあったことは夢だったのかと疑う。廊下で会った加州はひどく蒼白な顔をしていて、私を見るとビクッと体を硬直させた。
「おはよう」とりあえず声をかけると、幾分ほっとした表情で笑ってくれた。


間抜けな私は加州に強姦されたのは夢だったのだとすっかり思い込んだ。しかし再び夜中に体に乗り掛かられて、かつての一夜が現実のことだったと理解した。
怒りで我を忘れる。滅茶苦茶に暴れた私の爪は、加州の肌を抉りいくつもの傷を作った。
ふざけるな、死ね、死ねと吼える私を押さえ込み、加州はまるで自分が犯されているような悲痛な表情をして私を抱く。
「ごめんね。ごめんね」
ぼろぼろ涙がこぼれて私の胸に落ちる。それすら不快で、拳で顎を殴った。どんなに殴られても加州は抵抗しなかった。


朝起きるとやはり横に加州はいなかった。が、爪の間にこびりついた赤黒い血肉を見て、憎悪が胸に湧く。
奴を探し回ったがなかなか見つからない。
「どうした?」
殺気立って足を鳴らしている私を見とがめたのか、ある刀が声をかけてきた。
加州を知らないか、と聞くと、彼は手入れ部屋を指差す。ちょうどそのタイミングで戸が開いた。
「ああ、出てきたな」
一人の刀に脇を抱えられて、加州が姿をあらわす。なぜ手入れ部屋にいたのだろうか。私がボコボコに殴ったせいだろうか。しかし、手入れを終えたばかりだというのに、加州の顔はやつれている。
とりあえず加州のもとに向かう。ふと振り向くと、手入れ部屋を指差してくれた刀剣男士は私を見て厭らしく笑っていた。ぞっとして顔を背ける。ここにいるのは化け物ばかりだ。


私を目にするなり加州は目を見開きぶるぶる震え出す。
「ごめんね主」
抱きついて泣いてきた。まるでこちらが酷いことをしたみたいだ。
「俺あるじのこと好きだよ。俺のこと捨てないで」
縋り付き、みっともなく泣き喚くのがいたたまれなくなって、毒気を抜かれる。なぜお前が泣いているんだ。泣きたいのはこっちだ、と思いつつも、怒りが身を潜めてしまう。いつの間に愛着を覚えてしまったんだろうか。
「もう二度としないで」
私の言葉に加州は何度もうなずく。
罰として加州を刀解しようかと思っていたのだが、泣いて縋る様が可哀想になって、今回ばかりは見過ごそうと思った。
そもそも、加州を刀解したら他に頼りになる刀がいなくなって困る。加州以外の刀はみんな不気味で、そばに寄るのも嫌だ。


だが約束が果たされることはなかった。何度拒否しても抵抗しても、強引に股を開かれる。
やはり刀剣男士は人とは感覚が違うのだろう。道理が通じる相手ではないのだ。
もう諦めて加州を受け入れる。私が受け入れたあとも、加州は少しも幸せそうな顔をしない。いつも悲しく苦しげな表情をしていて、日ごとにその影は濃くなった。

行為が終わったあと、加州はしばらくすると部屋を出てしまう。私が寝ついたころに出て行くように気を使っているようだが、それにしても事が済んだら女を置いて出て行ってしまうなんて薄情ではないか。そういう時、加州は朝になっても帰ってこない。不満に思わないでもなかったが、別に恋人同士でもないし、言葉にすることはなかった。


ふと、部屋の戸のむこうに気配を感じた。笑い声が聞こえたような気がして、そちらを凝視する。
私の変化に気づいたのだろう、加州は青ざめた顔に笑みを浮かべた。慌てたように、怯えたように。
「主、どうしたの? こっち向いて?」
顔を戻すと、加州が唇を落としてくる。触れる唇も肌を撫でる細い指も、慈しむように優しい。私を愛しく思っているのが伝わってくるぶん、どうして強姦なんてするんだろうと不可解に思う。
まあいいや。今では痛みや不快感より、ちゃんと快感のほうを強く感じるようになったから、さほど嫌というわけではない。
目を閉じて、ゆるゆると与えられる快楽に意識を向ける。やがていつものように腹の上に吐き出されて、加州が自らそれを拭いてくれる。

「主、好きだよ」

赤い瞳に悲しげな光を浮かべ、彼は私の髪を撫でる。それに返す言葉はないから、私はおやすみと言って目を閉じる。


眠りに片足を突っ込み意識がぼんやりしてきたころ、隣から温もりが消えるのを感じた。加州が布団を出たのだ。
またか、と思っただけで気にするつもりはなかった。目を閉じていると、人の話し声がしたような気がした。いや、確実に、廊下で誰かと話している。加州が。誰と?


頭が冴えてきた。足音が遠ざかる。私は布団を抜け出し、急いで服を着る。ほんの少し戸を開けて様子をうかがう。静まり返った廊下、屋敷の奥へと進む影が見えた。
息を潜め、後に続く。影は廊下を曲がったところで一室へと消えた。
しばらく曲がり角で立ち竦んでいた。部屋の中から声が聞こえる。やがて話し声は誰かの悲鳴に消された。あの声は、誰の? 加州の? 悲鳴の合間を埋めるように笑い声がさざめく。
嫌な予感しかしない。足は引き返したがっていたが、興味がそれを上回った。
部屋の前まで歩く。戸に顔を近づけ、耳をすます。

案の定、泣き叫んでいるのは加州だった。
いや、泣き叫んでいるというより、喘いでいるに近い。
「あーーっっ!! あっ、うっ」
「こんな貧相な体で主を抱いているとは片腹痛いわ」
「さっきまで主の中に入っていたんだろう?」
「ここはすっかり雌孔になっているじゃないか。ほら、主がそうしていたように喘いでみせろよ」

耳を疑う。

「ちゃんと体洗わず来たんだね。主の味がするなあ」
「今日は我らが見ているので一段と興奮しただろう?」
「やめてっ、嫌、いたい」
「ははは」
「お前こそ痛がる主を無理やり犯したくせに。大好きな主と同じ痛みを味わえて幸せだろう」

嘲笑、水音、肌のぶつかる音。そこで何が行われているか予想がついた。悪寒が走る。吐き気がこみ上げてきた。

「なあいい加減に主を貸してくれないか? 男の体を抱いてもつまらん。主と寝た直後とはいえな」
「やめて、俺なんでもするから、主に手を出さないで」
ばちんと打たれる音がして、加州が一際高く悲鳴を上げる。

足が震えだした。知ってはいけない。これ以上ここにいては駄目だ。引き返そう、そう思った瞬間に、後ろから肩を叩かれた。
「やあ主。中に入りたいのかい?」
闇の中で光る眼が私を見下ろしている。
絶望した。
刀剣男士はにこにこと微笑む。遠慮することはない皆も喜ぶよと勝手に話を進め、私の肩を抱いたまま扉を勢いよく開け放った。

一斉に集まる視線。目に飛び込んできたのは、刀剣男士の集団。そしてその中央で、後孔を刀剣男士のひとりに犯され、別の刀剣男士に陰茎をしゃぶられている加州の姿だった。
「主!!!」
ぐしゃぐしゃに崩れた顔で加州が泣き叫ぶ。
一方、刀剣男士たちは満面の笑顔で私を迎えた。

「ああ、待っていたよ主。これでこの哀れな打刀も体を張る必要がなくなるね」

後ろから首元に衝撃を感じた。
逃げて、という加州の声を向こうに聞きながら、私の意識は遠ざかっていった。



気がつくと体中が重く鈍痛に襲われていた。
目だけを動かす。布団に寝かされているようだ。
なにか温かいものがくっついていると思ったら、加州が私に縋り付いて泣いている。
「主、ごめんね。ごめんね」
幾重にも涙の跡がある。私の服も湿っているような気がするから、ずっと泣いていたんだろう。

頭が霞のかかったようにぼんやりする。なにも思い出したくない。

「ごめんねっ、俺、主を守れなくて」

加州はなにを泣いているんだろう。
嗚咽を漏らす様は可哀想で気になるけど、赤い瞳はやっぱり気持ち悪くて、私は目を閉じた。


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