「歯を立てたら駄目よ」

 爪の先を含ませると膝丸は怯えた目でこくりと頷いた。熱く濡れた口内に指を深く侵入させる。奉仕をしろと命じてあるので、柔らかく舌を丸め、口腔を窄めるように密着させてくる。ねっとりとまとわりつく肉が心地よい。私に男の一物が生えていたらもっと気持ち良かっただろうが、ないものは仕方ないので指で代わりにしている。
 必死に私の指をしゃぶる膝丸はたまった唾液を飲み込むことすら忘れているようで、口の端から垂れている。粘度の高い液体が薄い唇をてらてらと光らせていた。
口の中で指を曲げると歯の裏側に当たった。びくりと膝丸が固まる。尖った犬歯を指の腹で撫でてみた。つるつるした表面を堪能したあと、唾液でじゅうぶんに濡れた指を引き出し、上唇をめくり上げて犬歯を露出させる。綺麗な色の歯茎と形の良い歯がむき出しになり、獣じみた印象が強くなった。しかし私を見る膝丸の目は獣というにはあまりにも力無く、恐怖をあらわにしてゆらゆらと震えていた。
 犬歯の先端の尖りを何度も撫でさする。次第に膝丸が体を揺らし、ん、んと抑えた呻き声を漏らし始める。舌が震えているのが見て分かる。勝気な釣り目はいまや切なげに歪められていた。

「歯で感じるの?」

 爪で犬歯を引っ掻く。膝丸は腰を跳ねさせ、目に涙をためて私を見上げる。歯の付け根を指で強くごりごりとすると、はっきりとした喘ぎ声を上げて善がった。

「犬歯触られるの気持ちいい?」

 はぁはぁと口で息をする膝丸の開きっぱなしの口から糸を引いて唾液が垂れる。
 今度は二本の指で彼の舌を挟んで扱いてやる。

「は、あッ、っっ!!」

 舌の裏側の血管を圧迫すると彼はびくびくと跳ね、大量の唾液が落ちて床を濡らした。逃げようと奥に引っ込む舌を引きずり出し、なおもぴゅっぴゅっと扱き続けると、膝丸は派手に体を揺らすと共に急に口を閉じてしまった。ぱくんと勢いよく閉じられた唇と、合わさった歯。指に鋭い痛みを感じて驚いていると、膝丸のほうが私を見て驚いた顔をしていた。反射というか、無意識のうちに口を閉じてしまったのだろう。
 歯を立てたら抜歯だと脅していたのだから、私の手を噛まないように細心の注意を払っていたはずなのに、体は言うことを聞かず噛んでしまったわけだ。びっくりした表情からだんだんと青ざめて恐怖を浮かべる顔が可愛らしい。怯えを滲ませながら彼はゆっくりと上下の顎を開く。ぬちゃ、と糸を引いて、食い込んでいた歯が私の肌から離れた。白い指には歯型がくっきりと浮いていたが、浅いもので、血が出るには到底及ばなかった。
 しかし、

「あーあ。お仕置きだね」

 わざと口調に悪意を含ませ、唇を歪ませて笑うと、膝丸は目に見えて動揺し始めた。琥珀のような瞳が涙の膜を張る。哀切に潤んだそれは憐憫を誘うどころか、溶けた蜜のように甘く中毒的に滴り、私の中に嗜虐の影を落とした。
 指を突っ込み犬歯を掴む。

「やっぱりこの歯、危ないから抜いちゃおうか」
「…い、嫌だ。二度と歯など立てぬ、今回ばかりは見逃してくれ」
「そう言われてもねえ。君が口淫上手くならないのがいけないんだし」
「すまない…今度こそは、善くしてみせる」

 膝丸は唾液の線の光る口元を引き攣らせて私に縋り付く。気位の高い宝刀である彼が、ただの人である審神者の前に身を投げ出しこんな言葉を吐くまでに、どれほどの矜持を打ち砕かれたのかは筆舌に尽くし難い。我ながら上手く調教したものだと内心ほくそ笑む。

「でもねえ。その台詞聞くの何回目? 主の肌に傷をつけるなんて何様だよって話よ」

 牙の付け根を揺さぶり、歯茎に爪を立てる。痛みに震える膝丸の喉と、食い込ませた爪の先からじわりと滲み出す血。とうとう瞳が決壊して涙が頰に流れた。涙と唾液にまみれて懇願する姿も美しく、泣き顔も様になっている。萎縮しきった哀れな獣のような表情でこちらを見上げる姿に、少しだけ心が満たされた。

「それじゃあ削るだけにしようか」

 ぱっと手を離すと膝丸は痛そうに口を閉じた。口内に広がる血の味に顔をしかめている。
 私は部屋に重ねてあった器具の中から(ペンチや針山や、棘のついた鎖やら、色々ある)、武骨な平ヤスリを取り出した。柄を握って振り向くと、膝丸は新たな恐怖に目を見開く。

「大丈夫、痛くはしないよ」

 たぶんそんなには。君が今までに耐えてきた痛みには匹敵しないよ。へらへら笑いながら近寄って、また口元に手を伸ばす。
 その瞳に怯え以外の色を僅かに読み取って、私は首をかしげる。期待とも興奮とも見えるそれはなんだろうと思ったが、すぐに、ああと合点した。

「君は口が性感帯なんだったね。犬歯触られるの好きだったね。きっと凄く気持ちいいと思うよ」

 柔らかい唇をこじ開けて牙を愛撫してやる。引き攣った呼吸を繰り返していた膝丸は、やがて諦観したように目を閉じた。
 彼が舌を噛まないように、ガーゼを丸めて口の中に突っ込んでおく。牙の先端の尖りに粗目の刃を押し当てる。長い睫毛に絡まっていた雫がぽとりと落ちた。